京アニ裁判 精神鑑定なぜ判断分かれる?「死刑制度が結果歪める」精神科医の問題提起 #ニュースその後
そうした事例は前述の二つの事件だけでなく、頻繁に起きていることだという。被告に精神疾患が疑われる事件では、起訴前の精神鑑定が重要になる。 刑法では39条で「心神喪失者の行為は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と規定している。起訴前に「責任能力がない」と判断されれば、公判を始めることができない。そのため、検察による起訴前の精神鑑定では、平常時であれば明らかに統合失調症を疑われる症状があっても統合失調症にならず、妄想性障害や妄想性パーソナリティ障害といった診断になることが多いのだという。 では、精神鑑定で心神喪失、「責任能力はない」とされた場合はどうなるのか。
「極刑が死刑」だから歪む精神鑑定
それは2003年に成立した「心神喪失者等医療観察法(医療観察法)」に規定されている。同法は、心神喪失または心神耗弱の状態で殺人や放火など重大な犯罪を行った人について、責任能力がないとして無罪、または不起訴処分になった場合は、医療機関に入院させ、社会復帰を促進することを目的とした制度である。この制度の場合、精神障害が重度であれば、事実上ずっと入院し続けるケースもあり得る。 だが、重大事件において心神喪失が認められるケースは多くない。その理由は二つあると岩波氏は言う。一つは、起訴前鑑定では「責任能力はある」という結果が出やすい傾向にあること。もう一つは、日本に死刑制度があることだ。 「例えばイギリス。同国での極刑は『終身刑=刑務所での無期懲役』です。一方、精神障害の人が加害行為をした場合、責任能力はないと判断され、治療、入院となります。医療行為の提供の有無はありますが、自由が制限された勾留状態という点で、刑務所での終身刑と精神科への入院は外形的に見て、近いものがあります。もしこの選択であれば、純粋な医学的鑑定に従って司法判断がなされるでしょう。ところが、日本では極刑に死刑があります。死刑に相当する重大事件の場合、検察は当然極刑、死刑を求刑します。だから、検察が主体で精神鑑定をするときには、医学的な観点で精神疾患と認められても、社会的な制裁を求めて鑑定結果が歪められてしまいがちなのです」