京アニ裁判 精神鑑定なぜ判断分かれる?「死刑制度が結果歪める」精神科医の問題提起 #ニュースその後
検察側は2度の精神鑑定と計22回の公判を経て「完全責任能力があった」と主張、12月7日、「類例なき放火殺人事件」として青葉被告に死刑を求刑した。一方、弁護側は最終弁論で「重度の妄想性障害」だと訴え、「心神喪失として無罪か、心神耗弱として刑の減軽が行われるべきだ」と主張した。青葉自身は最終意見陳述で「この場で付け加えて話すことはない」とした。 岩波氏の見解は、上記の2度の精神鑑定よりも踏み込んでいる。 「公判で明らかにされた情報による限り、被告の行動には統合失調症による被害妄想が100%関与しているといえます。責任能力はないと考えます。『京アニに自分の作品をパクられた』という被害妄想があり、それが攻撃的行動の動機となった。これを『動機形成とは関係ない』というのは無理があります」 精神鑑定によって加害者の責任能力の有無が判断される。にもかかわらず、このように専門家の間でもその鑑定結果が大きく異なることは珍しくない。
過去の重大事件でも問われた責任能力
過去にも加害者の刑事責任能力が争点となった事件はある。 1999年に通行人が無差別に殺傷され、2人が死亡した「池袋通り魔殺人事件」。2007年に最高裁への上告棄却で死刑判決が確定した。弁護側は犯行当時、統合失調症による心神喪失状態だったとして再審請求をしていたが、棄却されている。 2001年に大阪教育大学附属池田小学校で無差別に児童や教職員が刺され、8人の児童が殺害された「附属池田小事件」。加害者は若い頃から粗暴な事件を繰り返し、17歳から事件を起こした37歳まで精神科医の診察をたびたび受け、15人以上の精神科医が治療が必要だと判断していた。だが、一審で死刑判決が出て確定すると、2004年に執行された。
これらの事件でも、精神鑑定の結果については異論があると岩波氏は付言する。 「池袋通り魔殺人事件の加害者は、青葉被告と同様に被害妄想や誇大妄想が顕著に見られ、完全に統合失調症だと考えます。また、附属池田小事件については加害者の精神鑑定そのものがめちゃくちゃでした。彼は統合失調症ではなく、ベースはADHD(注意欠陥多動性障害)だったのではないでしょうか。ADHDの人のごく一部ではありますが、多動衝動性が強いタイプが犯罪に至る例があります。彼の場合はADHDによる衝動性に被害妄想が加わり、犯行のきっかけになったと考えられます。症状は統合失調症に似ているが、人格が崩れて働けなくなることはないんです」 では、京アニ事件ではどのような判断、判決が下されるのだろうか。 岩波氏は、多くの臨床にあたる精神科医は統合失調症と考えるだろうと語る。しかし、地裁判決がどうなるかという視点で言えば、心神喪失ではなく、心神耗弱という形で「責任能力を認める=重い量刑になる」可能性が高い、と岩波氏は見ている。 「それは裁判所が世間に忖度するからでしょう」