京アニ裁判 精神鑑定なぜ判断分かれる?「死刑制度が結果歪める」精神科医の問題提起 #ニュースその後
2016年1月に出所。その際、刑務所は出所について精神保健福祉法第26条に基づいて、県知事に通報している。同法26条は精神障害やその疑いのある人を釈放か退所させようとするときに、出所者の帰住先の知事に通報することを定めている。その後、青葉被告は生活保護の受給や住居の手配なども受けていた。 統合失調症は、病歴や症状、兆候を包括的に評価して診断されるため、適切な診断を受けることができるかどうかが重要になると岩波氏は言う。発症してしまった場合には、早期かつ継続的な服薬治療を続けることが不可欠だが、それが継続されていれば一般の社会生活を送ることが可能だという。
「ちゃんと薬を飲み続けていれば、例えば100あった能力が85くらいにレベルダウンしてしまうこともあるけれども、仕事も続けられる。問題は、その服薬を途中でやめてしまう人が一定数いることです。その結果、症状が悪化してしまうのです。青葉被告は統合失調症の診断を受けていますが、治療を続けていなかったのではないでしょうか」 そんな青葉被告に対して、京アニ事件後に2度、司法に関する精神鑑定(刑事責任能力鑑定)が行われてきた。
「犯行への影響」で判断分かれた精神鑑定
1度目は起訴前に行われた、検察の依頼による精神鑑定だ。担当したのは大阪赤十字病院の和田央医師。2020年6月から12月までに、和田氏は検察の捜査記録をもとに青葉被告と計25回面接。1回あたりの面接時間は1~3時間だったという。さらに家族からも聞き取りを行った。 和田氏は、被告が「妄想性パーソナリティ障害」だったとし、他者への疑い深さや不信感が過度であったと分析した。京アニを犯行の対象としたことについては、自身が応募した小説が落選したことをきっかけに被害妄想が膨らんだことの影響があったとした。ただし、それ以外は精神障害の「影響はほとんど認められない」との見解を示した。この鑑定をもとに検察側は完全責任能力があると主張している。 2度目は起訴後、弁護側の請求を受けた京都地裁の依頼で行ったもので、東京医科歯科大大学院の岡田幸之教授が行った。岡田教授は2021年9月から翌年2月までの間、青葉被告に1回あたり3時間の面接を12回、計36時間にわたって実施。やはり家族にも話を聞いた。 岡田氏は、被告の妄想が「奇異でない」ものであるため統合失調症ではなく、「重度の妄想性障害」によるものとした。拡大した被害妄想が「動機形成に影響した」とし、その動機形成により「犯行にも一定の影響を及ぼしている」と判断した。弁護側はこの鑑定をもとに、責任能力はなかったと主張している。 両者ともに責任能力について明確に言及しなかったが、犯行への影響という点での判断は対立した。ただし、「被害妄想」「妄想性」についての指摘は共通していた。