プロ野球トライアウトの次に待ち受けるセカンドキャリアの壁
約1万2000人ものファンが集まった異例の甲子園でのプロ野球12球団合同トライアウトが終わって2週間が過ぎた。トライアウト参加組で秋季キャンプのテストも含めて声がかかったのは、現段階では阪神の柴田講平外野手(30)、ロッテの伊藤義弘投手(34)の2人。しかも伊藤は、巨人から不合格を言い渡されている。トライアウトに参加せずに次の行き先が決まった選手もいるが、ほとんどの選手は、これからの人生をどうするか、というセカンドキャリアの問題に直面する。 「私は、トライアウトをひとつの区切りにスパっと野球はあきらめたほうがいいという意見。そこから先の人生のほうが長いんです」 そう語るのは、日本リアライズ株式会社のプロアスリート・セカンドキャリア・サポート(PSS)事業部で、引退後のプロ野球選手の一般企業へのマッチングや、就職に関する情報提供、教育などをサポートしている川口寛人さんだ。元巨人の育成選手。1年でクビになった自らの体験をもとに、プロアスリートのセカンドキャリアの道先案内人となる事業を進めていて、トライアウト会場にも足を運ぶ。 プロ野球では、毎年100人を越える選手が戦力外通告を受ける。昨年、戦力外になった選手、引退した選手の、その後の追跡調査をNPBが行い、今年5月に発表された資料によると、127名中野球関係に進んだのが69パーセントに及ぶ87人。現役選手を続けられたのが11人、育成選手契約が4人で、指導者や裏方など球団フロントになったのが35人である。 一方、野球以外の一般会社就職などを決めたのは24人。全体の19パーセントしかない。これには、飲食など自営業をはじめた人も含まれているので、一般企業への就職となるともっと減るだろう。 球団別で、一般会社への就職、自営に進んだ元選手の最も多かったのは、広島、西武の5人、日ハムの4人と続くが、中日、阪神、ロッテはゼロ。現実問題として辞めた選手の半分以上の人が野球界に残るのだ。 だが、川口さんは、「そこに問題を抱えて悩んでいる選手も多い」という。 「辞めた後も、野球にかかわっていきたい気持ちはわかりますし、戦力外を受けた選手の多くが、球団に残るのが現在の傾向ですが、球団職員はほとんどの場合、嘱託契約で福利厚生も充実していません。契約も単年や数年です。不安定なのです。その事情も知らずに安易にセカンドキャリアを決めた後に苦労して悩むケースが少なくありません。いわゆるサードキャリア問題です。今は、ネットなどで情報を簡単に手に入れることができて一般企業への就職を希望する人が増えていることも事実ですが、まだまだ、誰にどう相談すればいいかもわからず困っている選手も少なくないのです」 プロ野球における裏方と呼ばれる仕事は様々で、巨人や楽天など、子供たちに野球を教えるアカデミーの指導要員として採用、嘱託社員として給料を払うところもある。年収はその職種や球団によって違うが、福利厚生などはなく、国民年金や国民健康保険、税金などを支払うと、手取りで月30万円程度はザラ。しかも、1年や数年契約の嘱託、契約社員なので、いつ切られるかわからないという不安定さを抱え、退職金なども加算されない。一時期、社会問題にもなった契約社員問題はプロ野球界にものしかかっているのだ。