貨物列車の「車軸折損」、本当の原因は何なのか? 不正追及の傍らで忘れ去られている技術の本質とは
前述したが、輪軸組立で重要なのは車輪が車軸をしっかり把握することで、その把握力は基本的に締め代で決まる。締め代は圧入部の内外径の差0.2~0.3mm程度であるため正確な測定は簡単でなく、組立作業の良否を管理する指標として圧入力が使われてきた。昨今の測定技術を使えば、把握力を直接測定することも可能かもしれない。今回の問題を契機に、圧入力の基準値や管理方法そのものを見直すべきと考える。 一連の報道に接すると、不正行為に対する“責任論”や“精神論”が前面に出てきて、基準値を逸脱したらどうなるかという“技術論”が見当たらない。筆者は基準値を下回った場合の問題については機械屋として説明できるが、輪軸組立作業に直接従事した経験がないので、上回った場合の問題についてはうまく説明できない。基準値や管理方法の見直しに当たっては、作業を熟知した経験者の意見を十分に聴くべきである。
日常的に事故が発生していた時代、関係者は事故現場を直接見て、否応なしに原因や予防策を考えざるを得なかった。しかし、現在のように事故の発生が稀になると(もちろんそれが目指してきたことなのだが)、関係者の学ぶ姿勢が欠如した場合、技術の本質を見失って適切な対応ができなくなる。今回の問題をどう結論付けるか、日本の鉄道技術が今後も発展を続けるか衰退するか、その岐路に立たされているように思う。
辻村 功 :技術士(機械部門)