貨物列車の「車軸折損」、本当の原因は何なのか? 不正追及の傍らで忘れ去られている技術の本質とは
■データを差し替える不正はあったが… 2024年7月24日12時32分頃、山陽本線新山口駅構内において、上り貨物列車(電気機関車1両+コンテナ貨車23両)の電気機関車6軸のうち先頭1軸が進行方向左側に脱線した。車軸が折れていた。列車脱線事故として運輸安全委員会が調査中なので、いずれ詳細な事故調査報告書が公表されるはずである。なお、事故を起こしたEF210形341号機は、製造後2年程度の比較的新しい電気機関車である。 【図でわかる】左右の車輪を車軸にはめ込んだものが「輪軸」。どのような構造になっているのか
事故発生から約1カ月半経過した9月10日、JR貨物と国土交通省は、輪軸組立作業における不正行為があったと公表した。輪軸とは左右の車輪を車軸に嵌め込んだもので、車輪中心の穴の内径を車軸の外径よりわずかに小さくしておき、強い力で圧入して組み立てる。その際の圧入力が基準値を超過した場合、検査結果を基準値内のデータに差し替えて検査を終了させていたというものである。 当初、この不正行為はこの作業を実施するJR貨物の車両所のうち3カ所で認められたと報じられ、国交省は全国の鉄道事業者に対して緊急点検を指示した。その結果、9月30日に国交省が公表した速報によれば、不適切な事案が確認された事業者は91、そのうち改ざんは50。調査対象の事業者156のうち約6割で不適切な事案があったという結果である。しかし、車軸折損との因果関係には触れていない。
この一連の発表に接して筆者は、圧入力の基準値超過と車軸折損に因果関係があるのかという疑問を抱いた。以下に詳述するが、圧入力が下回って車軸が折れることはあるが、上回って折れることは考えにくい。もちろん、不正行為が許されないのは論を待たないが、その因果関係を明らかにしない限り再発防止にはつながらない。筆者は鉄道車両に関わる技術者として、その観点から執筆させていただく。 なお、一般読者にご理解いただけるよう、専門用語はわかりやすい表現に置き換えた部分があるので、学術的な用語の定義とは一致しない部分があることはご容赦いただきたい。