診断まで36年―高熱と痛みを繰り返す希少疾患「家族性地中海熱」 患者が抱える課題は
◇「感染する病気」との誤解も
家族性地中海熱は主症状が発熱なので、感染症と間違われやすい病気です。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の流行により、社会全体が「発熱」に対して敏感になりました。発熱のたびに新型コロナを疑われて検査や隔離をされた、通常の受診もできなくなった、新型コロナかもしれないからしばらく学校に来ないように言われた――といった話を多く耳にしました。発熱を繰り返していることを理由に会社を解雇されてしまった方もいます。特に地方の場合、一度失業してしまうと正社員としての再就職が難しく、そこから貧困に陥ってしまうこともあります。 新型コロナが落ち着いてきた今でさえ、「熱があるなら近寄らないで」と言われることもあると聞きます。家族性地中海熱は感染症ではないので当然人にうつることはないのですが、本人がそう言ってもなかなか信じてもらえない現状があります。新型コロナの流行を通して、家族性地中海熱に対する差別的な風潮がより顕著になってしまったように感じます。家族性地中海熱は昔に比べて社会的認知度は上がってきていますが、患者会として今後は正しい情報・知識を広めていく必要性を感じています。少しでも多くの人に家族性地中海熱について正しく知っていただけたらうれしいです。
◇誤情報の“増殖”を危惧―「知識の普及」に取り組む
以前に比べて家族性地中海熱の社会的認知度が上がってきた分、病気に関する誤った情報がどんどん増えていることは大きな課題です。患者同士がSNSなどで情報交換を行っているのを見ていて思うのが、とにかく情報が古く、正確でないことです。どの患者も自分の主治医から言われたことを咀嚼そしゃくし、情報を共有し合っていますが、その主治医が持っている情報が、自己炎症性疾患の研究班*や学会が公表している情報とはまったく異なる知識や独自の見解である場合があるのです。研究班の医師たちもそうした現状を非常に危惧されています。 どこから情報を得るかによって、患者の将来は大きく変わってしまいます。誤った診断・治療により私のように重い症状が残ってしまった方もいます。患者会には数カ月おきに研究班から直接新しい情報が伝わってくるので、家族性地中海熱と診断されたらまずは患者会に入って情報を得てもらいたいと思います。ただ、家族性地中海熱は遺伝性疾患であることから個人情報を明かすことに抵抗を感じる方も多くいらっしゃいます。そのため、患者会では会員/非会員の枠を取り払って、当事者であれば誰でも参加できるオンライン講演会を開催するなどの取り組みを行っています。正しく新しい知識を普及するために、患者が適切な情報にアクセスしやすい環境を整備することが今の目標です。 私が「赤ちゃんだから熱を出しやすい」と言われて診断がつかなかったように、いまだに原因不明と言われ、親御さんが必死になっていろいろな病院を受診してようやく診断に至ったという話をよく聞きます。社会的認知度が上がってきていても、いまだに子どもや親のせいにされてしまう現状をとても悔しく感じますし、この現状は何とかして変えなければならないと思っています。患者会のスタッフには、私を含め重い臓器障害を併発しているスタッフが多く所属しています。これから家族性地中海熱と診断されてくる子どもたちには、どうか私たちのように重症になる前に助かってほしいというのが、患者会スタッフ全員の願いです。 *自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班
メディカルノート