場外ファイト火花の大晦日決戦…なぜ世界最速4階級制覇を狙う田中恒成は井岡一翔の過激挑発に大反撃をしたのか?
WBA、IBFのバンタム級統一王者の井上尚弥(27、大橋)が、その典型だが、減量苦から解放されて、これまで隠れていたポテンシャルが一気に開花する可能性もある。転級初戦で田中がスーパーフライ級に値するパワーを発揮できるかどうか。 「田中のフレームは決して小さくない。計量後にリカバリーしてリングに上がったとき、井岡より田中が大きく見える可能性さえあるのではないか」(元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士氏)との声もある。当日の蓋を開けてみなければわからないが、この部分もこの試合の勝敗を左右する焦点だろう。 評判の飯田氏の試合予想は、また別の機会に紹介するが、筆者は、テクニックと経験、パワーでは井岡が上。スピード、回転力で田中が上、と見ている。田中は「接近戦でも離れてもどっちでもいい。両方できる」という。 そして最大の田中のアドバンテージはモチベーションだろう。 井岡は、「僕にとってメリットがない試合」と言ったが、田中は、真逆だ。 「俺にとってキャリア最大の勝負と思っている。このチャンスは必ずつかみたい」 わずか15戦だが田中は、この試合を人生最大の試合だと位置づけている。僅差の試合になれば、守る人と、奪う人の思いの差がどこかで出るのかもしれない。 プロ16戦目の田中が4階級制覇を達成すれば、ボクシング界の“レジェンド”であるオスカー・デラホーヤ(米国)が4階級制覇を果たした24戦目を大きく短縮する世界最速記録となる。その称号とベルトを武器に世界のマーケットに打って出たいとの野望もある。 「(この階級には)強い選手がたくさんいる。そういう選手と戦っていくための入口の試合になる。交渉ごとなんで、すぐともいかないにしても今後の目標にしている」 WBCのファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、WBAのローマン・ゴンサレス(ニカラグア)、IBFのジェルウイン・アンカハス(フィリピン)と、この階級には強豪王者が揃っており、団体統一戦が熱を帯びている。井岡も、海外リングで、そこに割って入ることを最大目標にしているが、田中もまた同じ夢を抱いており、この大晦日決戦は、世界のトップ戦線へ向かうチケットを争うサバイバル戦の意味合いもある。 「新型コロナの影響で、暗い世の中を少しでも明るくできるように、ボクシング界の今年最後のしめくくりにふさわしい試合をしたい」 海外では珍しくないトラッシュトークも“礼節の国”日本ではあまりお目にかかれない。だが、意地とプライドを張り合う“場外ファイト”も悪くない。新型コロナ禍での大晦日決戦が面白くなってきた。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)