3階級世界王者の田中恒成が名勝負必至の元統一王者との日本人対決を“ワンサイドゲーム”にした理由とは?
ボクシングのWBO世界フライ級王者の田中恒成(23、畑中)が16日、岐阜メモリアルセンターで、元WBA、IBF世界ライトフライ級統一王者の田口良一(32、ワタナベ)と初防衛戦を行い、互いにダウンシーンはなかったが、3-0の大差で判定勝ちした。田口が王者時代に一度は内定しながら田中の怪我で流れた2年越しの因縁の日本人対決が、階級と立場を変えて実現したが、進化した田中のスピード&パワーと高度テクニックが、名勝負必至と予想された試合を一方的な展開に変えてしまった。試合後、田口は進退についての明言を避けた。王者の田中はV2戦をクリアした後に4階級制覇構想を抱いている。
壮絶なラストシーン
最終ラウンド。 田中は判定決着を拒否しようとしていた。 足を止めて踏ん張り思い切りパンチを振り回した。 「わざと足を止めた。倒しにいくためと思いきり打ち合うため」 ポイントでは圧倒していた。立ってさえすればベルトは守れるが、田中は、その安全な選択をしなかった。それが元統一王者へのリスペクトのカタチであった。 顎をしめて田口も応戦した。 「いいのが効いてくれ!」 祈るようにして一発逆転にかけたが、もう生きたパンチは残っていない。 「気持ちで負けたくなかったが、田中選手は強かった」 試合終了のゴングと同時に2人は抱き合ったまま離れない。いや、正確には、もう立っていることさえできなかった田口が、田中にもたれかかっていたのだ。 それは壮絶なラストシーンだった。 「田口選手は、それくらい出し切っていた。それくらいの思いで立ち続けていた。それが心に残っている。勉強になった。教えてもらいました」 その姿に田中はボクシングの神髄を教えられた気がしたという。 ジャッジペーパーが読み上げられた。 117-111が2人。「117」という数字を聞いたとき、田口は「負けだと思った」という。3人目は119―109の大差をつけていた。 名勝負必至と謡われた日本人対決は終わってみれば田中の“ワンサイドゲーム”になった。2年前の大晦日にライトフライ級の統一戦として一度は、内定していた両者の対決は、田中の“前哨戦”でのまさかの両目眼窩底骨折で流れた。その後、昨年5月に田口がヘッキー・ブドラー(南アフリカ)に判定で敗れ、2団体の統一ベルトを失い、田中は階級を上げて3階級制覇王者となり、両者は階級と互いの立場を変えて再び岐阜の地で巡りあった。「THE FATE」とキャッチコピーがつけられた好カードは、田口からすれば少しタイミングが遅すぎたのかもしれない。 9か月のブランク。復帰戦が、即世界戦で、しかもひと階級上である。ブドラー戦は序盤のスロースタートが結果的に響いて判定で敗れた。その反省がトラウマとなり、田口を逸らせた。 中間距離が田口の距離だが、1ラウンドからややクラウチングに構え、距離をつめて前に出たのである。 接近戦からアッパー、ボディを使ったコンビネーションで攻める。ある意味、奇襲だった。ジャッジの一人だけが、このラウンドの田口を支持した。だが、2ラウンドになると、もう田中は対応していた。ステップを使い自分の距離にすると、スピードとパワーで圧倒。密着戦では鋭いアッパーとボディで応戦する。 だが、3ラウンドの開始早々に田口の右フックがテンプルにヒット。田中は、ドタっと後ずさりするようにしてよろけた。 「一瞬、ダメージがあった。残るものじゃなかったけど」 田口はラッシュを仕掛けたが、中途半端に終わる。このラウンドの後半は、むしろ田中が執拗な左ディ攻撃でペースを奪い返していた。 「詰めたかったが、またチャンスがある」 その考えは誤算だった。これが最初で最後のチャンスだった。