20年連続No.1「経済の複雑性」をもち味に。スモール・ジャイアンツが飛躍する方法
日本が誇る技術力の高さやきめ細やかなビジネスは、かえって弱みにもなりうることがある。小さな大企業が、日本ならではの強みを発揮するために向き合うべきこととは。 日本の企業は生産性が低い──。この不名誉な事実は広く知られているが、「2000年以降、日本が世界1位」であり続けている経済指標をご存じだろうか。 それは「経済複雑性指標」(ECI)だ。マサチューセッツ工科大学のセザー・ヒダルゴ准教授(当時)が提唱したもので、「技術の擦り合わせによって複雑なモノを生み出す能力」の高さを示している。日本のもち味とも言えるが、その裏には「価格なき経営」のリスクもある。 ECIは1998年以降のデータが開示されており、98年は、スウェーデン、ドイツ、スイスに次いで日本は4位。99年はスウェーデンが4位に転落し、ドイツ、スイスに次ぐ3位。そして2000年以降、日本は1位をキープし続けている。 例えば、自動車開発の場合、走行性、静粛性、耐久性、積載性の何を重視するのかによって開発は大きく変わる。この複雑な開発を可能にしているのは、多種多様な加工技術、部品を製造する下請け企業だ。逆にパソコンや薄型テレビなどのコモディティ商品は「良品廉価」の競争に巻き込まれやすく、日本の「勝ち筋」が複雑性にあることは確かだ。しかし、複雑性には弱点がある。製造工程が複雑になり、部品が増加すれば、それだけ原価管理が難しくなる。赤字仕事を請け負うリスクが高まるのだ。 バンパーなど商用車部品の開発・製造を手がける神奈川県の大和プレスは創業以来、大手自動車メーカー数社の指定協力工場としてサプライチェーンを支えてきた。発注元の「指名発注」も含め、求められるままに仕事をこなした。だが、大手自動車メーカーで事業所の統廃合などの合理化が進むにつれ、次第に売上高は右肩上がりではなくなった。それでも経営スタイルを変えなかった。発注元の要望に応えるため、新規投資を行い、新工場も建造した。その結果、メーカー側の車種・製造方針などの変更の影響もあり、大和プレスには多額の借金だけが残った。 ■採算可視化からの復活 「こんな仕事あるけどやりますか」という発注元からの声かけに応じて受注していると製造品目は膨れ上がり、製品コスト管理が困難になり、採算割れが経営を圧迫した。こうしたなか、取引銀行の紹介でやってきたのが、企業支援を手がけるブレイン・アンド・キャピタル・ソリューションズの黒澤祐一だった。まず着手したのが「採算可視化」だ。ヒアリングを通じ、「主力商材」と「話題に出た商材」の原価と利益率を把握した。問題商材のあぶり出しだけではない。それを許してきた組織の構造問題を改革した。 大和プレスは以前から「利幅が高い得意商材」「利幅が低い苦手商材」を感覚的にはわかっていた。しかし、数値化するまで、手の打ちようがなかった。撤退すべき商材を洗い出し、発注元との交渉に入った。粘り強い交渉の末、低利益率商材の返上に成功した。会社の体質強化も進めた結果、約10年ぶりに黒字化を果たした。