20年連続No.1「経済の複雑性」をもち味に。スモール・ジャイアンツが飛躍する方法
世界と戦う「勝ち筋」
「『お客様ファースト』という考えから、発注元とより良い商品を開発・製造し、利益をシェアする『ビジネスパートナー』だと考えるようになりました。発注元に対等なパートナーと認めていただくために、会社の力もつける。発注元も理解してくださっています。時代は間違いなく変わりました」と梁川永泰社長。支援した黒澤は「採算可視化を土台とした数字の議論と信頼できる仲間の存在、そして経営者の『変えたい』という強い想いがあり、活動を積み重ねた結果、業績改善につながったのです」と話す。着実な組織改革やビジネスモデルの転換を経て下請け体質を脱却した「スモール・ジャイアンツ」企業は多い。 SAPジャパンの古澤昌宏インダストリーアドバイザーは「日本の多くの製造業には、原価情報のない『部品表』しかない。『BOM』の概念がない」と指摘する。 BOM(Bill Of Materials)は、子部品、孫部品、各種工程からなる部品の構成情報だが、原価情報がひも付くため、「採算上、この仕事を受注すべきかどうか」という経営判断が可能になる。しかし、原価情報のない部品表だけでは「採算割れ仕事」を請け負ってしまうリスクが増大してしまう。古澤氏によれば「大学でBOMを学んだ学生が、ある大手メーカーに就職したところ部品表の概念しかないことに驚愕したという話もある」という。 日産自動車が下請け企業に対して、支払い代金を不当に減額したとして公正取引委員会から再発防止の勧告を受けたように、「下請けいじめ」の商習慣は「価格なき経営」の温床となった。紙、ファックスの請求書、検収明細、日報を使い続ける中小企業側の事情もある。3DCAD(3次元コンピュータ利用設計システム)の設計図をファックスで送りつける大企業もある。3次元情報をわざわざ2次元情報に変換し、下請け企業が3次元情報に戻す無駄な作業を繰り広げているのだ。 中小企業のDX推進に詳しい野村総合研究所の山田彰太郎エキスパートリサーチャーは「中小企業が採算可視化によって生産性・収益性を改善させ、大企業の価格転嫁を促すためにも、中小企業の取引データ・日報データを電子化して一元管理する『データの標準化』が必要だ」と強調する。データを利活用して受注、調達、生産の改善につなげる「データの標準化」を押し進めることで、中小企業の損益改善を阻む商習慣を乗り越えることができるだろう。この先にこそ日本の強みである「経済複雑性」を最大限に生かしながら、生産性を引き上げ、世界と戦う「勝ち筋」が見えてくる。 はしもと・たくのり◎1975年東京都生まれ。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。20年から編集委員。著書に『捨てられる銀行』シリーズ。23年3月には最新作『地銀と中小企業の運命』(文春新書)を刊行。累計35万部のベストセラーに。
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