日米が警戒する中国の「海警法」は何が問題なのか?
海保と海自の連携、米豪印との協力強化を
日本として取るべき対応は次のようなことだと考えます。 第1に、尖閣諸島に対して中国が行っていることは危険な行為であり、大規模な紛争に発展する恐れがあります。そうなった場合、海上保安庁だけでは対応できなくなることもあり得ますので、海上自衛隊との連携・協力を常日頃から強化しておく必要があります。 第2に、日本としての海洋戦略を常に明確にしておく必要があります。その上で日本としては領土や領海に関する中国の一方的主張は到底認められないことを中国側に言い続けることが肝要です。 第3に、米国をはじめ各国との連携と協力を強化しなければなりません。米国のバイデン政権は尖閣諸島、台湾、南シナ海についても関係国と協力して対処する姿勢を明らかにしています。2月に日米豪印の4か国(QUAD)による外相電話協議が開かれたのは、米国の呼びかけによるものでした。そして3月12日に初の首脳協議が開催され、日本が提唱する外交構想「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、より多くの国々と連携する重要性が確認されました。その上でインフラや海洋安全保障、テロ対策、人道支援などさまざまな分野で4か国の協力が進んでいることを確認し、ワクチンや気候変動などの作業部会を立ち上げることで一致しました。 バイデン政権の対中姿勢については、かつてのオバマ政権時代のように融和的になるのではないかとの懸念する向きがありますが、尖閣諸島については日米安保条約が適用されること、つまり、第三国から侵略や攻撃を受けた場合、日米両国は協力して対処することをバイデン政権はあらためて確認しました。またこの点は3月16日に日本で開催された外務・防衛閣僚らによる日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)においても再確認されました。 台湾についてもバイデン政権は、米国の同盟国や友好国との協力に「台湾との関係を深めることも含まれる」と明言しました。またバイデン大統領の就任式には、台湾の実質的な駐米大使である台北駐米経済文化代表処の代表を初めて招待しました。さらに南シナ海での「航行の自由作戦」を継続し、演習も行っています。ブリンケン米国務長官はフィリピンのロクシン外相と電話会談し、中国による南シナ海での領有権の主張について「米国は拒否する」と表明しました。 安全保障面で日本ができることは限られていますが、日本としては尖閣諸島に限らず、南シナ海でも可能な限り、米国、さらには豪州、インド、東南アジア諸国と平和と安定の維持のため協力を強化することが必要です。英国、フランス、ドイツなども最近南シナ海に対する関心を強め、艦船を派遣する考えがあると伝えられています。このような多国間の協力が台湾を含むこの海域の安定に資するもっとも現実的でかつ効果的な方策であると考えます。
------------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹