日米が警戒する中国の「海警法」は何が問題なのか?
尖閣含む「第一列島線」海域の支配が狙い?
中国は、我が国の九州南端から沖縄、台湾、フィリピン群島さらにボルネオ島へ連なる「第一列島線」と中国大陸との間の海域、つまり、東シナ海から台湾を経て南シナ海へ続く一大海域を中国の支配下に置くための戦略を立て、実行しようとしています。 そのことを示しているのが、1992年、中国が制定した「中華人民共和国領海及び接続水域法」(領海法)であり、台湾や尖閣諸島を含め、この海域内のすべての島嶼が中国の領土であると規定しています。他国の領土を中国のものだと主張するとんでもない内容の法律です。 領海法の制定後、中国はこの海域で数々の問題を起こしてきました。尖閣諸島については、周辺の海域への侵入を頻繁に繰り返しました。当初は漁船によるケースが多数でしたが、最近は海警局の公船(海警○○号という名称になっている)による領海・接続水域への侵入と、我が国の漁船を追いかけたり、追い払ったりするなどの妨害行動が増加しています。 台湾については、中国との統一を最大の課題としています。また南シナ海では、南沙諸島で人工島を造成し、軍事利用が可能な基地を建設し、さらにフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどの漁船に妨害を行っています。 中国が海警局の公船を大型化し、また武装化を進めていること、また今回海警法を制定したことは前述した戦略を達成するためのステップなのです。海警法の制定を機に、中国の脅威が一層高まると警戒する声が上がるのは当然です。
「管轄海域」は中国側が一方的に決める
外国の公船に対する武器使用を認める海警法が国際法に違反していることは前述しましたが、対象となる「管轄海域」に関する規定にも問題があります。同法は、中国の「管轄海域」内の海や島においては武器使用などの強制行為を取ることができると規定していますが、「管轄海域」内か否かは、領海法において明らかなように、中国が一方的に決めるのです。 各国がこのような一方的主張を始めると、大規模な国際的紛争になるでしょう。もちろん海洋法条約はこのような一方的行為を認めていません。 また南シナ海について、国際紛争を平和的に処理する常設仲裁裁判所は2016年、昔から自国の海だとする中国の主張は「国際法上の根拠がなく、国際法に違反する」との判断を下しました。しかし、中国はこの判断を完全に無視しました。残念ながら中国は国際法を尊重していないといわざるを得ません。 公船に対する武器使用について、日本政府は中国政府に対して抗議しました。日本ではさらに、「日本だけが黙っているべきでない」「海上保安庁も外国の公船に対して武器使用が可能となるよう法改正をすべきだ」との意見もありますが、そうすれば日本も国連海洋法条約に違反することになり、賢明な方策でありません。