赤羽キャバレーの熱帯夜 「17才」に涙 ロック演奏の「ゴーゴータイム」でドラムの特権 話の肖像画 喜劇役者、劇団SET主宰・三宅裕司<6>
ステージで歌ったことはないけれど、自分が入れた仕事です。そこで私が歌うことにしました。歌は五木ひろしさんの「よこはま・たそがれ」(山口洋子作詞、平尾昌晃作曲)です。
《歌のリハーサルは…》
リハーサルは開店前、ホステスさんたちが座席でお化粧をしているところでやりました。私が歌い始めたら、みんなの化粧の手が止まりましたよ。下手すぎて。でも、ホステスさんはほめてくれるんです。勇気づけてくれたんですね。
そのキャバレーには「ゴーゴータイム」というのがあって、ホステスさんたちがテーブルの上で踊りながらどんどん脱いで、トップレスになっていく。ゴーゴータイムではロックンロールとかビートルズの曲を演奏するんですが、みんなは譜面を見ながらの演奏です。でもドラムはリズムを刻めばいいので、私だけがゴーゴータイムをずっと見ることができました。
そこのホステスさんはみんなきれいなんです。見とれちゃうぐらい。だけど開店前に会うと誰だか分からないんですよ。見事なほどの変貌ぶりでした。メンバーの中には車で来ているやつがいて、ホステスさんから「たばこ銭あげるから、うちまで送ってよ」って言われましたが、すべて断りました。
こうしたハードなキャバレーでの仕事を終え、メンバーの車で帰るとき、ラジオから流れてきたのが南沙織さんの「17才」(有馬三恵子作詞、筒美京平作曲)。あのすがすがしい青春の歌に比べ、酷暑の赤羽のキャバレーで激しいバイトをしている俺たちは何なんだ、と涙が流れましたよ。(聞き手 慶田久幸)
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