グアム島の生態系を丸ごと衰退させた、恐るべき外来ヘビ
ミナミオオガシラ(学名:Boiga irregularis)は、さほど目立った特徴のあるヘビではない。神経毒をもつが毒性は弱く、成人にとって危険性はないとされる。外見もごく平凡だ。配色もカラフルとはいえないし、たとえばクモに見せかけた尻尾を使って鳥をおびき寄せるクモダマシクサリヘビのように、驚くべき特殊な形態をしているわけでもない。 だが、この地味なヘビは、世界で最も甚大な被害をもたらした外来種のひとつだ。10種以上の動物を絶滅に追いやった実行犯であり、間接的には、ある島の生態系全体の衰退を引き起こした。 ミナミオオガシラはオーストラレーシア(オーストラリア、ニュージーランド、および付近の南太平洋の島々の総称)原産で、本来の分布域はニューギニアと周辺の島々、オーストラリア北東部沿岸だ。第二次世界大戦末期、このヘビは本来の分布域から1600km以上北に離れた太平洋の隔絶された島であるグアムに、意図せず持ち込まれた。 ■20年間にわたり人知れず在来種を滅ぼしつづけたミナミオオガシラ このヘビは1940年代に、パプアニューギニアのアドミラルティ諸島から、軍用貨物に紛れてグアム島に侵入したと考えられている。しかし、グアムの人々は1953年までその存在に気づかなかった。急速に生息域を広げ、生態系を破壊している事実が明らかになったのは、ずっと後になってからのことだ。 外来種のミナミオオガシラには、新天地に天敵がいなかった。そしてこのヘビは、自重の70%に相当する獲物を捕食できるほど旺盛な食欲をもっていた。樹上性のミナミオオガシラは、グアム島在来のさまざまな動物を好き放題に食い荒らした。グアム島にはそれまでヘビが全く生息していなかったため、在来種はこの未知なる捕食者への対抗策を何ひとつ持ち合わせていなかった。 本来の分布域では、獲物となる生物たちは自衛手段を進化させていたし、寄生虫や病気、別のヘビなどの天敵によってミナミオオガシラの個体数は抑制されている。しかし、天敵がおらず獲物が豊富なグアム島では、個体数が爆発的に増加した。 ミナミオオガシラは、グアム島で繁殖する在来鳥類のほとんどを絶滅に追いやった。12種の森林性の鳥のうち、10種の野生個体群が消滅したことで、グアムの森は沈黙に包まれた。野生絶滅した2種、グアムショウビンとグアムクイナは、地球上でグアムにしか生息していない固有種だった。