プーチンに戦争を続ける「余力」はあるか。2025年初から分析するロシア経済の明暗
年が明けて2025年の世界経済が動き始めた。 2024年のロシア経済は、大方の予想を裏切り、3%台半ばという堅調な成長率を記録する見込みだ。2023年の3.6%増からは減速するが、ロシア政府が同年9月末に公表した『2024-26年度予算』の中での見通し(2.3%増)や、ロシア中銀が同年11月の『金融政策レポート』の中で示した見通し(0.5-1.5%増)をいずれも大幅に上回る実績だった。 【全画像をみる】プーチンに戦争を続ける「余力」はあるか。2025年初から分析するロシア経済の明暗 政府や中銀の予測を上回る高成長をもたらしたドライバーは「軍需」だろう。つまり、ウクライナとの戦争の予期せぬ長期化に伴い刺激された軍需が、結果的にロシア経済の成長をけん引したわけだ。とはいえ、ヒト・モノ・カネといった生産要素は有限であるから、軍需を満たすためには民需を犠牲にする必要がある。つまり、軍需は民需を強く圧迫する。 いわゆる「軍事ケインズ主義※」の問題はここにある。確かに、軍需は経済の成長をけん引するが、同時に民需の拡大を阻むものであるから、持続可能な経済成長とはなりえない。短期では一定の景気浮揚効果があっても、長期では経済成長を下押しする。軍事国家の国民の生活水準が低いのはそのためだ。つまり、戦争は着実に経済を疲弊させる。 ※軍事ケインズ主義とは:直接、戦争に踏み切ることも含めて、軍費を増強することによって目先の景気・経済を成長させることができるという経済運営観 図表1ロシアの製造業生産の対前年増加率(業種別) そもそも、ロシアの事実上の前身国家であるソ連の経験こそが、軍事ケインズ主義に基づく経済運営の限界を端的に示している。 ソ連はアメリカとの間で軍拡競争を繰り広げたが、その過程で軍需を優先し過ぎたことが、民需の深刻な圧迫につながり、経済危機を招いた。さまざまな兵器は溢れていても、国民の身の回りのモノが不足する経済だったわけだ。
ロシア「軍需シフト」の痕跡1:生産指数の変化
ところで、軍需が増大し、需要の在り方が変化すれば、それに応じて供給の在り方も変わる。そこで、実際に製造業生産の動きを確認してみたい。 ロシアの2024年1-10月期の製造業生産は前年比8%増と、2023年の同8.5%増に続き堅調だった。これを全体の増加率に対する寄与が大きい上位5業種に分解すると、「金属製品」が首位だった。 金属製品は汎用性が高いため、その増加が直ちに軍需向けだというわけでもないが、一方で軍需品には大量の金属を用いるという事実もある。 次に「その他の輸送機械」による押し上げが目立つが、これは自動車を除く輸送機械を意味する。具体的には飛行機や船舶、鉄道車両などだが、こうした業種の堅調も軍需と関わっていそうだ。 図表2ロシアの製造業生産の水準(業種別) 実際、その他の輸送機械による押し上げ寄与度は、開戦後に急激に拡大していることが分かる。この動きは、ロシアがこの間に戦略爆撃機や無人機の増産を図ったことと整合的だ。また「自動車・トレーラー・セミトレーラー」の寄与度も大きいが、特にトレーラーやセミトレーラーの場合は、戦争による需要増を反映した可能性が意識される。 続いて、製造業生産全体の増加率に対する寄与度が高い5業種の生産の水準について、2020年を100とする指数で確認すると、伸びが最も力強かったのは金属製品であり、次いでその他輸送機械、コンピューター・電気機器・光学機器だった(図表2)。こうしたことも、金属製品とその他輸送機器が軍需向けであった可能性をうかがわせる。