『光る君へ』で皇太后になった彰子が藤壺を出て移った〈枇杷殿跡〉は京都御苑にある。世界遺産である仁和寺には紫宸殿が
◆最古の紫宸殿はどこにある? 『光る君へ』では、内裏や土御門第の内部が、豪華なセットで再現されています。では、実物の寝殿造の建物を見たくなったときは、どこに行くべきでしょうか。 平安時代の皇族や貴族の邸宅の様式を今に伝える建物として、まず思い浮かぶのは京都御所でしょう。宮廷の重要な儀式などが行われた紫宸殿や、日常の生活の場である清涼殿など、天皇が1869年まで実際に住んでいた御殿を見学することができます。 ただし、現存する御所の建物は、平安時代に建てられたものではありません。平安時代のものは13世紀に焼失。その後も焼失と再建を繰り返し、現存する建物は江戸末期の1855年に造営されたものなのです。 また、先述のように、場所も移動しています。現在の京都御所は、里内裏であった摂関家の邸宅のひとつを戦国時代の武将たちの援助を受けて拡大したものであり、かつての平安京より東に位置しています。 つまり、現在の京都御所の建物は築170年ほど、というわけですが、実は京都には、もっと古い時代に建てられた紫宸殿が残っているのです。 それがどこにあるか、即答できる人は相当の京都通でしょう。 正解は、世界遺産である仁和寺(真言宗御室派・総本山仁和寺)です。仁和寺の本堂である金堂(国宝)は、江戸時代の初め、1613年に造営された御所の紫宸殿を移築したもの。これが現存する最古の紫宸殿であり、当時の宮殿建築を伝える貴重な建築物として、国宝に指定されているのです。 今の京都御所より240年以上も古い紫宸殿が、あの仁和寺にあったとは!また、同寺院の御影堂(重要文化財)にも、慶長年間(1596年~1615年)造営の清涼殿の一部が使われているそうです。
◆『源氏物語』にも登場する門跡寺院 では、なぜ仁和寺に、天皇の御殿である紫宸殿が移築されたのか。その理由は、この寺院の成り立ちをひもとけば見えてきます。 仁和寺は、888年、宇多天皇によって建立された真言宗の寺院です。譲位後に出家した宇多法皇が仁和寺に入寺。以降、1867年までの約1000年にわたって、皇族が歴代の門跡(住職)を務めてきた格式高き門跡寺院です。 当然ながら、皇族や朝廷とのつながりは深く、御室御所とも呼ばれたほど。そこで、内裏の建て替えの際などに、紫宸殿や清涼殿の一部を賜ることができたのだと考えられます。 ちなみに、中宮・彰子が、土御門第で敦成親王(のちの後一条天皇)と敦良親王(のちの後朱雀天皇)を産んだときのように、皇室の方々の出産の際には、仁和寺の僧侶が駆けつけて、加持祈祷を行ったそうです。『光る君へ』でも、僧侶たちの物々しい読経が響き渡る出産シーンが印象的に描かれたので、ご記憶の人も多いでしょう。 かつての紫宸殿の建物は、本尊である阿弥陀三尊を安置する金堂として使われています。外周には格子状の蔀戸(しとみど/寝殿造りの開口部に使われた板戸の一種。上下2枚に分かれており、開けるときは上半分をはね上げて先端を金具にかけて固定する)が配されていて、建物全体にも風格が感じられます。 通常、金堂の内部は非公開で、蔀戸も閉じられたままですが、平安京の面影を伝える建築物として、外観を眺めるだけでも興味深いのではないでしょうか。京都御所の紫宸殿と見比べて、違いを見つけるのも、おもしろいかもしれません。 現代においても24万坪の土地と150棟の建物を有する仁和寺。しかし、平安時代の伽藍は今よりはるかに広大だったようです。皇族、貴族だけでなく、文化人との関係も深く、平安時代には貴人たちが集う文化サロンのような役割も果たしていたとか。有名歌人を集めた和歌の会には、紫式部も参加していたのではないでしょうか。 というのも、『源氏物語』には仁和寺を想起させる寺院が登場するのです。 『源氏物語』第35帖「若菜下」では、光源氏の正妻となった女三の宮の父、朱雀院(すざくいん/光源氏の異母兄でもある)が出家し、「西山なる御寺」に入ります。その「西山なる御寺」のモデルは仁和寺だといわれているのです。
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