「誰もが被害者にも加害者にもなる」ビジャレアル・佐伯夕利子氏に聞く、ハラスメント予防策
ハラスメント予防に必要な心得と解決策
――お話を聞いていると、ハラスメントを引き起こすリスク要因は誰しもが持っているように思えますが、自分自身の傾向を自覚するために効果的なことはありますか? 佐伯:ビジャレアルでは自分が指導している自分の音声を聞き直して、それを自分だけで見るのではなく、他者に見てもらい、フィードバックをもらうことを続けています。それは私たち自身にとっても苦しい作業でしたが、3回ぐらいやれば慣れますし、何より効果がありました。映像は部分的な場面ではなく、練習も試合もロッカールームもチームミーティングも1on1もすべて撮影して、いろいろな側面から自分を俯瞰的に見ることができる効果的なシステムだと思います。 ――他に、スペインでハラスメント予防のために取られている対策はありますか? 佐伯:スペインでは近年施行された新しいスポーツ法の中で、通報義務が課されるようになりました。「ハラスメントを見たり、聞いたりした人は通報しなければならない」という法律ができたことで、知っていながら通報しなかった人は罰則が設けられたわけです。法律は市民が作っていくものなので、社会の流れの中で市民からそうした法を求める動きがあったことは、スポーツ界にとってもありがたいことだと思います。 また、クラブに対しては、UEFA関係の大会に出るためのクラブライセンスを取りに行く時の項目や、スペインの国内法でもコンプライアンスとハラスメントに関する文言が掲載されています。その中で示されているのが、まず「予防するための仕組みを組織として設けること」で、通報を受けてから対処するのではなく、「何かが起こっている」ことを組織として事前にキャッチして予防することが求められます。また、通報した人の立場が弱くなったり、もみ消されないように、事実がしっかりと共有されるような状態にしておくことも必要です。それらの要件を満たせなければ、UEFAチャンピオンズリーグには出られないし、犯罪として扱われるわけですから、ビジャレアルでもそのための環境整備には力を入れて、実践しています。