ママと区議のタッグで学童への弁当宅配が可能に――子育て行政に変化を促す「ママインターン」とは?
「江戸川区の学童が共働き世帯にやさしくないというのは、私が議員になる前から言われていて。なんとかならないかなと思って働きかけましたが、母親は子どもとともにいるべきという考えも根強くて、らちがあかず。大変なのはわかってます、でも子どもたちはおうちの人のお弁当が一番おいしいと言ってますから、がんばってください、という感じで」 そういう経験から、今回は林さんが主体となり、小林さんが後方支援にまわる作戦をとった。 林さんは、学童に配達可能な弁当配達サービスを探した。利用したい人がオンラインで個別に注文できると理想的だ。当てはまるサービスが2社あったが、江戸川区はサービスエリア外だった。そのうち1社は「区と契約できれば配達は可能」という。 江戸川区には78の学童がある。区からすれば、宅配弁当のニーズがどれくらいあるかを調べるだけでも大変だし、弁当を誰が受け取るのかなど実務面の調整も必要になる。結局、区が契約することはできないが、「保護者が個人としてやるというかたちなら」ということで宅配弁当の利用を了承してもらった。 林さんは、区内で宅配をしてくれる弁当店を見つけたが、その店は個別で注文ができず、代表者がとりまとめる必要がある。弁当が必要な時期になると、林さんがほかの保護者の分もまとめて注文をファクスで流す。
そのやり方を続けて1年半が経った今年2月。江戸川区は、2023年度の夏休みから、すべての学童で宅配弁当を利用できるスキームを導入すると発表した。2人の働きかけが実ったかたちだ。 小林さんはこう話す。 「こんなに早く実現できるとは思いませんでした。区側の金銭的負担が少ないこと、ニーズがあることがきちんと伝わったのが大きいのではないかと思います。子育てに限らずですが、議会に当事者がいること、当事者の声を聞かせてもらうことがいかに大切かということなんですよね」
ママインターンのチャットは「自分の意見を安心して言える場所」
1期生の橋本絵美さん(42)は、2021年にママインターンを卒業したが、その後もOGとして本目さんの活動にゆるやかに関わっている。 応募したときは、双子を出産して育休中だった。双子の4つ上に長男がいる。 「子どもを育てながら『世の中ってこういうふうになっているんだよ』と教えてあげられる親でありたい、と思いました。子どもたちとこの町でずっと暮らしていくんだと考えたら、生活に一番近いところ、自治体について知ることってすごく大事だなと思って」 橋本さんにとって、ママインターンが集うチャットは、自分の意見を安心して言うことができる場所だ。 「テレビとかで政治について話していても、自分はどう思うかをまわりの人と話すことはほとんどありません。でもここだったら、自分の意見をどんどん言い合える。母として、妻としてではなく、会社での自分としてでもなく、私という個人でいられるというか。大事なサードプレイスになっています」 ママインターンをしている人から異口同音に聞かれたのが、「ここでは『意識高い系』と揶揄されることがない」という言葉だ。 本目さんは、日常生活で女性が政治の話をしづらいことについて、こんなふうに言う。 「一つには、野球と政治の話はするなみたいな、昔ながらの風習がありますよね。もう一つ、女性は政治なんてわかんないでしょと思われている部分もあると思います。このあいだ(ママインターン志望者に)ヒアリングをしていたら、そんなふうに言われたという方がいて。その方は海外育ちで、政治の話もふつうにしてきたのに、日本の会社に勤め始めたら、『ごめんね、女性には難しい話はわからないよね』と言われたと」 もともとは、日々のちょっとした気づきを聞かせてほしいという思いで始めたママインターンだが、女性が政治や社会についてのびのびと語り合える場所になりつつある。 「新しい時代の政治参画の仕方になってきているな、というのは実感します。それは、議員にとってもママにとっても、両方ですね」