新刊刊行記念「初顔合わせ」対談!「色気のある男」も「クズ男」も書いていく(桜木紫乃×町田そのこ)
「色気」はどうやってうまれる!?
町田勢いで聞いてしまいますが、どうやったらあんなに色気のある人物が描けるんでしょうか? わたしはどうも男運がないらしく、クズみたいな男とばかり付き合ってきていて、それが作品にも出ているみたいなんです。「町田が描く男はクソ男ばかり」なんて言われることもあります。 桜木色気のある男を描いているつもりはないんです。桜木の描く男は情けなくて、だらしなくて、ってよく言われるけど、男の人は別に格好つける必要はないと思って描いてる。実際、男も女も自分が思っているより格好いいということはないわけで。多面体ですからね、お互い。それに、あんまり格好つけるとさっさと死んじゃうのよね。よく斬れる刀をもつ男は早死にすると思う。生きることに過剰な美学は要らないんだよ。 町田それは、影山博人のことでは!(註・桜木さんのノワール小説『ブルース』の主人公。その訃報から物語は始まる) 大好きです。小説の登場人物で誰が一番好きですか? と聞かれたら迷わず影山博人の名前を答えます。影山博人の女はわたしだと思ってます! 文庫本になったとき、壇蜜さんが解説書かれているのを見て本気で嫉妬しました。 桜木ははは。でも、抜き身のいい刀を持っている人のそばにいると、だんだんと自分も削られるのよね。若い頃はそこに気がつかないんだけど、大人になるとわかってくる。これは妻としてだけでなく息子のいる母親としても言うんだけれど、できれば男の人には、自分が持っている刀を「これ、ちょっと恥ずかしいかも」と思いながら、鞘から出さずに黙々と生きててほしいです。ああ、娘にも同じこと言うかも。 町田そこに色気が生まれるのでしょうか。わたしの場合、過去の男たちに対しての恨みを込めて描いているところがあります。もうそれこそ、死ねえ! って感じで(笑)。 桜木ダメだけど仕方ないよね、みたいな愛嬌、愛おしさはあります。こんな人でも生きていてほしい、と思ってる。わたしは、自分が嫌いな人は描いたことがないかも。 町田ああ、わたしにはできない……。それを聞いて、だから色気が出せないんだなって思いました。過去の経験を消化するように書いているところがあって、あまりいい恋愛をしてこなかったので、つい憎しみがこもってしまうんです。デートの約束をしていた男から「子供が産まれたから行けない」って電話があって、なんだ、猫でも飼ってたのかって思ったら、奥さんとの子だった……いや奥さんいたの知らねえし! とか。あとは、しょっちゅうお金を貸してって言ってくる男がいて、必ず一万円なんですけど、貸すとチケットみたいなのをくれるんですよ。それを使うとハグ一回できるっていう。気づいたら十八回分溜まってました(笑)。 桜木それが「十八万円の男」! そのネタで一本お話書けるじゃない! 町田さすがにこのエピソードは書いたことないですが、とんでもないクズ男でした。でも、過去を消化するようにクズ男を描いていると、すごいすっきりするんですよ(笑)。 桜木小説という表現には、現実を修正する機能があると思うの。わたしと同じラブホの娘でアルゼンチンの作家(註・「パパのラブホ」でデビューしたフロレンシア・ウェルチョスキーさん)が、「小説は、過去を修正し、整えて世の中に差し出すことができる」と言ってました。その人の父親はパタゴニアの田舎にラブホテルを作って、街の人にいろいろ言われたんですって。彼女の話を聞いていて、なるほどと思ったんです。周りの人はあれこれ言ったかもしれないけれど、内側はどうだったのか。これって小説でしか語れないところだとわたしも思ってたから。小説は視点がすべてと教わってきたけれど、本当だなって。 町田なるほど、小説は過去を修正する──。 桜木読者から、あなたの小説を読んで自分の過去が許された気がした、なんて感想をもらうことがあります。町田さんの小説を読んだ人が、「あなたの過去を知っているよ、でもそれはそれでいいんだよ」と認めてもらい、救われることもある。そういった力も物語にはあるんですね。 続きは後編にて
小説現代編集部