「仕事帰りのスーツ着た男が、トイレットペーパーなんて、買えるかっ!」と言った夫が定年を迎えた。家事を手伝ってくれるようになり、言われたことは…
作家の新井素子さんが、実体験をもとに描いた『定年物語』。主人公・陽子さんと、定年を迎えてずっと家にいる夫・正彦さん、そんな夫婦2人の生活の様子とは――。さらに『定年物語』の刊行際して、新井さんが思う夫婦の今後についてご紹介します。 【写真】新井さん宅の本棚。踏み台やハシゴを使わなくとも、上までよじ登れる!? * * * * * * * ◆夫婦間での家事の分担 陽子さんがほんとに辛くなると、正彦さんの方から、「作らなくていいよ、お弁当でも買ってこよう」って言ってくれるんだが……洗濯は、やらないとほんとに家が滞る。けど、正彦さんは、これに気がついていない。このひと、多分、すべての洗濯物はクリーニングに出せばいいと思っているふしがある。 日常の買い物は、正彦さん、その必要性に気がついていない可能性がある。「ほんとに忙しいなら御飯なんて作らなくてお弁当を買ってくればいい」って思っている正彦さんには……食材の他に、洗剤だのゴミ袋だのトイレットペーパーだの、日常生活を送っている以上、絶対に買わなければいけないものが、日々、家庭では発生しているってこと、理解できていない可能性が高い。 一回。 本当に忙しくて、買い物にでる暇がなかった陽子さん、会社から帰ってくる正彦さんから電話があって、「何か買って帰るもの、ない?」って聞かれた時。こう言ったことがあったのだ。
◆トイレットペーパーを買って来てほしかっただけ… 「あ、トイレットペーパー、買って帰ってきてくれると嬉しいな」 で、これに対する正彦さんの返事が。 「おいっ! 俺は仕事から帰ってくるんだぞ」 はい、それは判っているんですけどね。けど、仕事帰りに何か買って帰るものないかって、そもそもあなたが聞いてくれたんですけど……で、何で私が、怒られるの。 と、こんなことを陽子さんが思ったら。これに対する、正彦さんの返事は、こんなものだったのだ。 「仕事帰りのスーツ着た男が、トイレットペーパーなんて、買えるかっ!」 ……え……そうなの? 「そんな、スーツ着た男がトイレットペーパーを持って歩くだなんて、そんなみっともないこと……」 ……。 …………。 ……………。 この瞬間、陽子さんは思ってしまった。 ふーん、そうなの。 仕事帰りのスーツ着た男は、みっともなくてトイレットペーパー、買えないのか。でも、仕事帰りのスーツ着た女は、トイレットペーパーを買うんだよね。じゃないと、家のトイレが使えなくなるんだもん。じゃあ、あんたは、二度とうちのトイレで大便をするなよ。みっともないからトイレットペーパーが買えないんだ、あんたにはうちのトイレで大便をする資格がない。(ほんとは、うちのトイレを使うなって思ったんだけれど、男性の場合、小さい方で用を足す時、トイレットペーパー、使わないのかなって思ったので、こういう思いになった。)