500円で駅まで送迎 「高齢者ライドシェア」移動支援だけじゃない地域への効果 #老いる社会
宍戸さんは依頼があっても、無理なときには無理とはっきり断る。それもお互いによく知った関係で「住民互助」として行っているからできることだ。そのうえで、ドライバーをやることで生活が豊かになっているとも感じている。 「私が乗せているのは3人ですね。1人は月に6回くらい乗せている。その人は他の人ではダメで、私と話すのを楽しみにしていると言うんです。私も人と話すのは好きだから楽しいです。やっぱり、老人が元気に楽しく暮らせていない社会は希望がないと思いますよ。みんないつかは老人になるわけですから」
土船地区のこの小さな取り組みは、「初期コストの少なさ」や「仕組みの単純さ」などから注目を集め、県内外から自治体関係者等が視察に訪れているという。前出の福島地域福祉ネットワーク会議の事務局長、吉野さんは手応えを語る。 「うちの仕組みを説明すると、みなさん『こんなシンプルな方法で』と驚かれます。でも、住民主体で必要最小限のやり方をすれば、田舎だけでなく首都圏でもアレンジして利用できる方法だと思います。交通弱者の問題は地方だけの課題ではないでしょうから」
課題は保険料や運営費 でも地方の交通弱者への対策は急務
うまく回っているように思える「おでかけサポート」だが、課題もある。一つは、保険料や運営費の問題だ。 利用者が負担した500円は福島地域福祉ネットワーク会議の事務局がいったん集計し、1年分をまとめて各ドライバーに配布する仕組みにしている。ドライバーの保険料は1日定額で350円かかるが、この保険料の支払いにはこれまで厚生労働省の補助金(小規模法人ネットワーク化協働推進事業)を充てていた。しかし、その補助金が昨年度で切れたため、策を練る必要があると吉野さんは語る。 「現状では、保険料は年間10万円程度。例えば、社会福祉法人や地元の企業さんにスポンサーになってもらうとか、個人からの寄付を集めるとか、何かしらの工夫をして持続可能にしていくことが重要です」 もう一つの課題は、ドライバーと利用者の固定化だ。 「現在、ドライバーは21人が登録していますが、稼働度合いはバラバラです。利用者から『この人がいい』となるとドライバーが固定化されてしまう。そうなると、せっかく登録してくれたのに『利用者がいないならもういいかな』と思われて辞めてしまうかもしれない。まだまだ利用していない高齢者も結構いるので、地域包括支援センターや社会福祉協議会等と連携して、そういう方にも利用してもらい、外に出てもらうことができればと思っています」