500円で駅まで送迎 「高齢者ライドシェア」移動支援だけじゃない地域への効果 #老いる社会
一方、ここ土船地区の「おでかけサポート」は、そうしたライドシェアの議論とは関係なく、2021年から開始された。というのも、この土船地区の「おでかけサポート」は行政の許可・登録を必要としない「住民互助」による仕組みだからである。 道路運送法では、運送行為が無償で行われる場合においても、ガソリン代や駐車場料金、保険料といった「実費」を受け取ることは許されている。また社会通念上、常識的な範囲であれば「謝礼」も有償の運送とは言えず、許可や登録は不要であるとしている。 といっても、住民同士だけで自然発生的にこうした仕組みが生まれるはずもない。土船地区では、地元に拠点を置く社会福祉法人青葉学園が中心となり、2020年から「福島地域福祉ネットワーク会議」という会議体をつくって、福祉事業者と地域社会が連携する取り組みを進めていた。会議には、高齢者福祉だけではなく、障害者福祉や児童福祉を担う団体も加わった。その一環で高齢者の交通支援のための仕組みづくりが検討された。事務局長を務める吉野裕之さんは言う。 「特徴は、極めてシンプルに制度を作り、わかりやすく運用しているということです」 まずは運転手、利用者、それぞれが登録を行う。利用者登録ができる人は「実施該当地域に住んでいて交通手段に困っている高齢者(65歳以上)」「自分で車を運転できない人」に限定した。運転手も「実施該当地域に住んでいる人」のみ。運転手をする場合には安全講習を受講し、ボランティア運転手の認定を受ける必要があるが、肝心の利用の予約については、利用者が運転手と相談して決めるというアナログかつシンプルなルールだ。 「ライドシェアのようにアプリで予約するようなシステムはありません。すべて運転手と利用者が直接連絡して予約をする。それが可能なのはそれぞれが顔見知りの関係だからです」
利用は1回当たり500円。さらに自宅から近くのバス停まで、といった短距離の場合は100円に設定。最も遠い行き先でも「福島駅西口まで」と範囲を限定している。実費相当分の500円がかかるとはいえ、ドライバーはボランティア同然。そのため、ドライバーに負荷がかかり過ぎないよう配慮している。また、「安全性」と「安心」も担保できるよう、移動支援専用保険に加入している。今年度、この保険費用は稼働した日には1日定額で350円かかるが、この費用や事務作業は事務局が負担している。 2022年度には計249回、延べ321人が利用した。昨年度は計324回、延べ394人が利用。高齢者の利用会員は24人から31人に増えるなど、地域の重要な交通手段として定着しつつある。