500円で駅まで送迎 「高齢者ライドシェア」移動支援だけじゃない地域への効果 #老いる社会
「住民との関わり強くなった」高齢者の孤独化解消に
土船地区に隣接する庭坂地区にあるスーパー。長南きよ子さん(77)の運転でやってきたのは長南昭治さん(76歳)だ。同姓で近所に住んでいる二人だが、親戚関係ではない。 きよ子さんは自分の買い物のついでに「おでかけサポート」を使って、近所の人を乗せてあげるという。 「1日、11日、21日という『1』のつく日はスーパーで特売をやっているので、その日にスーパーに買い出しに行くんです。だから、そのついでに近所の人を乗せて一緒に買い物して帰ります」
昭治さんは自ら料理して自活しているが、運転免許を持っていない。そのため、きよ子さんに毎月5回程度、買い物に連れていってもらうことで生活が成り立っているという。 地域には移動スーパーで買い物をして、ほとんど外出しないまま生活している独居高齢者もいるが、「おでかけサポート」によって外出しやすい環境をつくることもできる。 ドライバーのきよ子さんは、近隣住民との関わりがより強くなったと語る。 「買い物の楽しさを提供できるよさもありますが、高齢者の見回りという側面もあります。さっきも、よく一緒に買い物する方の家の前を通ったらカーテンが全部閉まっていた。だから『少しでもカーテンは開けておいたほうがいいよ』と言っておきました」 一方で、自分の今後も気になると笑う。 「私も今はまだ運転できています。けれど、自分で運転できなくなったときのために、乗せてもらえる人を探しておかないと」 「おでかけサポート」の目的は「交通支援」だけではない。過疎化が進む地方では、高齢者の孤立化、孤独化が深刻な問題としてあり、単に交通の問題が解決すれば済むという話ではないからである。
地域社会を再構築へ「交通手段ないと高齢者が外に出なくなる」
「福島地域福祉ネットワーク会議」で中心的役割を担う社会福祉法人青葉学園の常務理事、神戸信行さんは、「おでかけサポート」は「交通支援」ではなく「福祉」として捉えることが重要だと語る。
「かつては地域みんなで協力し合うことは当たり前でした。でも、いまその前提となる地域社会が壊れてしまっている。高齢者の交通手段がなくなると外に出なくなる。すると、独居高齢者が増えることになってしまう。だから、もう一度地域社会をつくり直すことが必要なんです」 住民同士の互助を維持する難しさは、地方独特の事情も関係しているという。 「年寄りが近所の人の車に乗せてもらうと、後で自分の子どもたちから『他人に迷惑かけて』と怒られる。もともと田舎では何かをしてもらったら、そのお返しを過剰にしようとする風潮がある。そうなると、頼むほうも頼まれるほうも控えてしまう。そうして地域での互助が薄れていってしまったのです」 そこで「おでかけサポート」では「ワンコイン」という料金ルールにこだわった。ドライバー登録している宍戸定雄さん(81歳)は、この「ワンコイン」ルールができて心理的負担が減ったと話す。 「以前から私は近所の人を車に乗せて移動を手伝っていたんです。でも、田舎だから、乗せてもらったらお礼をしなきゃと言われる。それも全部断ってきた。でも、こうやってルールで『1回500円』と決められていると、利用する側もされる側も変に気を使わなくていい」