大学間で大きな格差!入試で問われる、障害のある受験生への「合理的配慮」義務とは?
合理的配慮の現状を調査して大学別に公表
受験時や入学後の学内サポートにおいて、障害学生に合理的配慮を行う取り組みは、改正法の施行以前から多くの大学で実施されてきた。だが、その取り組みの内容は大学ごとに異なり、力の入れ方にもかなり温度差がある。 その現状に一石を投じるのが、全国障害学生支援センターだ。同センターは、全国の大学を対象に、受験時、および入学後の合理的配慮の内容を1994年から調査し、毎年、次の項目について大学別の調査結果を「大学案内 障害者版」(書籍版、Web版)で公表している。 (1)障害学生の受験・在籍状況:在籍の障害別状況、卒業後の進路など (2)入学試験の状況:障害別の受験可否・配慮の有無、配慮方法など (3)大学内の設備状況:学内設備、障害学生に利用可能な補助機器の有無など (4)授業での配慮状況:一般講義・語学授業・実習など授業別の配慮の有無、定期試験での配慮の有無、障害別の配慮内容など (5)学生生活での配慮状況:支援者、相談窓口、就職支援、障害学生支援のための費用負担、通学支援など 同センター代表理事で、文部科学省「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」の委員も務める殿岡翼氏は、「調査結果を点数化してみると、総合点ではこれまで不動のトップといってよいのが広島大学」と述べる。各項目別で見ると、同大学のほか京都大学など難関国立大学の名前も上位に並ぶという。 だが、前述のように、大学によって合理的配慮の内容も取り組み方もまちまちであることから、調査活動は必ずしもスムーズに進んでいるわけではない。「2025年版」に反映されている23年の調査対象大学は820校。このうち回答を寄せたのは386校である。改正法の施行で、回答大学数や合理的配慮の内容がどう変わるか、同センターでは、その動向を見守りつつもいっそうの調査協力を呼びかけていく。
大学が求める「出願条件」の意図は何か
では、回答を寄せた大学では、障害のある受験生の受け入れをどのように進めているのだろうか。「大学案内2025 障害者版」の統計からまず読み取れるのは、「障害のある受験生の受験が可能な大学の大半が、出願時に条件を付けている」ことである。 上の表を見ると、386大学のうち、障害のある受験生の受験が「可」という回答を寄せた大学の数は、視覚障害で166、以下、聴覚障害175、肢体障害186、発達障害190、精神障害176、内部障害178、知的障害139であった。これらの大学の大半が、出願の際に条件を設けている。 ただし、条件の内容を見てみると、いずれの障害の種類においても上位3位は(1)事前相談、(2)診断書の提出、(3)障害者手帳コピーの提出であり、これらは受験時の合理的配慮を決定するために必要な項目である。その一方で、例えば、視覚障害のある受験生に「活字に対応できること」「試験(の形式)変更なし」といった厳しい条件を求める大学もある。 なお、「事前相談」と似た用語に、受験可否決定前に行う「事前協議」がある。前者は、対象者の受験を前提とし、受験時の合理的配慮の内容を決定するための話し合いをいうのに対して、後者は、受験の可否を判断するための話し合いを意味する。実際、事前協議の際に「入学後、屋外でフィールドワークを行う授業があって、障害のある学生の参加は難しい」という説明を受け、暗に受験辞退を促された受験生もいたと殿岡氏は述べる。 とはいえ、大学側にも「障害のある受験生の受け入れは難しい」というだけの事情はある。都内の私立A大学の入試担当者は、次のように胸の内を語った。 「本学は、毎年視覚障害のある高校生が受験するので、点字の入試問題を用意します。点訳の費用はかなりの高額。入試問題を学外に持ち出せないので、点字訳者に来校してもらい、試験当日も学内で待機してもらうなど、相当なコストがかかります。結果として、合格して入学してくれるとうれしいのですが、他大学に入学することもあって、複雑な気持ちになってしまいます」 受験者数が1万人規模の同大学でさえこうした事情を抱える中で、小規模大学の状況は推して知るべしだ。入学後、教員の協力を得られる仕組みが確立していない場合も多く、「多様な人々に門戸を開くという理想の実現には、国などから費用ほかの支援が必要」(同担当者)というのが本音だろう。