都心高級エリアに1億円の戸建て購入「こんなはずでは…」愛妻の希望を叶えたマイホームに“失望”した理由
たくさんの夢と希望を込めて家を建てたにもかかわらず、後悔しまう人は少なくありません。どうすればこのような悲しい事態を防げるのでしょうか……? 2000軒以上の住宅を手がけてきた一級建築士・内山里江さんの書籍『家は南向きじゃなくていい』より、家族の理想を詰め込んだマイホームで“失敗”してしまった、ある男性のエピソードをご紹介します。 【間取りを見る】完璧に見えるけど…間取りに潜む「暮らしにくさ」の落とし穴
依頼主の言葉の先にある「思い」
条件を「ぶつ切り」にしてくっつけただけの家 土地が決まり、いよいよ家の具体的な間取りを考える段階でも、建て主は一度も建築士と会うタイミングがないこともあります。営業担当者が「部屋の数」「広さ」「オプション」などについての要望を建て主から聞き出し、それをそのまま社内の建築士に伝えることが多いようです。 建築士はその「条件」をそのまま図面に反映せざるをえません。単なるパズルのような作業にすぎず、そこにクリエイティビティや周辺環境との調和といった要素の入る余地はありません。本来であれば、「建て主の望む暮らし」というゴールに向けて、建て主の希望や土地の環境といった要素がうまく「作用」「調和」する家を創り上げるのが建築士の仕事ですが、効率と合理性を重視した家づくりのプロセスではそういったことは省略せざるをえないのです。 そのようにしてつくられた家は、往々にしてバランスを欠いたものになりがちです。「広さは?」「間取りは?」「デザインは?」「断熱性は?」「外壁は?」などの各種の要素をぶつ切りにし、それを寄せ集めた集合体になってしまうからです。しかも、そのような家がもたらす違和感や住み心地の悪さは、住んでみてからでないとわかりません。
ある男性の後悔
知り合いの男性で、まさにこのような「ぶつ切り集合体」の家を建ててしまい、後悔している人がいます。その人は交通アクセスのよい、都心の高級エリアに家族とのお住まいを建てました。正方形の土地で、リビングに面する東側の道路は桜並木になっています。「リビングから桜を眺められたら最高」という思いで「大きな窓をつけてほしい」と営業担当者にリクエストしたのだといいます。ほかにも、吹き抜けや奥さまの書斎兼ワークスペースなど、「あったらいいな」の希望を伝え、それをそのまま叶えてもらったそうです。 ところが、いざ住んでみると「こんなはずじゃなかった」と思うようになったといいます。リビングの大きな窓からはたしかに桜並木が見えるものの、その道路は多くの人が日常的に利用するものであり、眺めのよい景色とは言いがたかったのです。当然ながら通行者からの視線も気になります。残念なことに、その大きな窓のカーテンは昼夜問わず閉め切られることになりました。また、吹き抜けの下につくられた奥さまのための書斎も使い勝手が悪かったのか、利用されることはほとんどなく、奥さまはいつも別の場所で仕事をしていたそうです。土地と建物とで1億円程度をかけたおうちだといいますが、この男性にとっては「自慢の家」「帰りたくなる家」にはならなかったのです。