山本周五郎賞作家の朝倉かすみさん、最新作で描いたのは平均年齢85歳の超高齢者読書サークル
朝倉さん自身、60代を迎えたころから、体力の衰えを実感しているという。 「集中力が続かなくなりましたし、頑張りが利かなくなりました。最初のころは『怠けているだけなんじゃないかな』と思ったのですが、次第にこれは老いなのだと気づきました。自分が調子よかったときのことって、身体も心も覚えているものなんですよね。今の自分に合った頑張り方に慣れるまでには、少し時間がかかったように思います」 老いを自覚したことで朝倉さんは仕事の仕方を変え、本作で初めてプロットを作成して執筆を進めていたそうだ。
今どきの文化も取り入れる
「これまでは書きながら文章や展開などいろいろなことを考えなくてはならず、大変だったんです。年齢とともに集中力が低下しているものの、章立てをして、その章の中で書きたいことをまとめたプロットを作ることで、小説を書くという作業に集中することができました」 その一方ではプロットから外れ、当初の予定とは違う展開になった部分もあるという。 「その出来事が生じたことで、なぜ私がこの物語を書きたいと思ったのかがハッキリわかったような気がします。家族や親戚、同僚といった関係では到達できない、その人の胸の奥にある、その人がその人である証拠のようなもの。それに触れられる間柄というのは宝物のようなものですし、いくつになっても大切なことなのだと改めて思いました」 実際、朝倉さんのお母様にとって、読書会はかけがえのない場所だったという。 「母は熱が出ていても読書会に行こうとしていたんです。よく『読書会が生きがいだ』と話していたのですが、この小説を書くことで母の言葉が腑に落ちました」 “坂の途中で本を読む会”には、「喫茶シトロン」の雇われ店主でもある20代の青年も参加をしており、高齢者と若い世代が交流する様子が描かれている。 「母の読書会を見学したとき、小説の感想を言い合ううちに自分の思い出話を始めたりして、そのたびに新鮮な驚きを感じたんです。そうした感覚を伝えたいと思い、世代の若い店主にも読書会に参加してもらうことにしました」 読書会メンバーのアクリルスタンドや応援うちわが登場したりと、本書では今どきの文化も楽しめる。 「応援うちわを作る材料は100円ショップでそろいますし、アクスタは年齢問わず持っている人が多いですよね。私も岩波少年文庫の全員プレゼントでもらったアクリルキーホルダーを持っています(笑)。雑誌の付録にキャラクターものの小物がついていたりもしますし、女性はいくつになっても可愛いものが好きですよね」