最悪の原発事故から11年、廃炉を担う若手技術者たちの苦闘 #知り続ける
ロードマップに立ちはだかる放射線の壁
福島第一原発は6基ある原子炉のうち、事故を起こした1号機から4号機で廃炉作業が進められている。まだ1号機と2号機には使用済み核燃料がプール貯蔵されており、これを取り出すことが最初のハードルだ。さらに1~3号機にはメルトダウンで溶け出した燃料が冷えて固まった「燃料デブリ」が存在し、この取り出しが次のハードルとなる。 2011年12月に発表された中長期ロードマップでは、第1期(2013年11月まで)に「使用済み燃料取り出し」が開始され、第2期(2021年12月まで)に「燃料デブリの取り出し」の開始、「使用済み燃料取り出し」の終了と記されていた。 だが、「使用済み燃料取り出し」が完了したのは3号機と4号機だけ。「燃料デブリ取り出し」に関しては、まだ格納容器の内部の状態を確認したり、取り出す方法を検討したりしている段階だ。 東京電力広報部によると、現在は1日約4000人が構内での廃炉作業にあたっている。それだけの人員が投じられながら、なぜ作業が遅れるのか。最大の原因は高い放射線量だ。 国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告によれば、放射線量の高い環境で作業を行う場合の実効線量の限度は5年間で100mSv(ミリシーベルト)、特定の1年間で50mSvと定められている。
現在、福島第一原発構内の大半は5μSv/h(マイクロシーベルト毎時)以下まで下がっており、普段着で歩くことができるが、原子炉建屋の中はそうではない。とくに建屋上部が吹き飛ばずに残った2号機は線量が高いままだ。昨年9月に遠隔ロボットで2号機を調査したところ、格納容器のふた付近で1.2Sv/hという極めて高い線量が記録された。付近に1時間とどまれば、まず健康に影響が出る量だ。 作業員は放射線量を今なお意識し、ときに回避しながら作業を進めていかなければならない。
1号機を大型のカバーで覆う
東京電力の木部直人(31)は2019年以来、1号機の使用済み核燃料の取り出しに向けた作業をしている。具体的には、1号機の「大型カバー」設置に関する工事監理業務だ。 「大型カバーとは1号機原子炉建屋を覆う、高さ60m以上の鉄骨製の巨大な建築物です。いわば1号機の原子炉建屋にビルをまるごとかぶせるようなものです。設置の目的は、放射性物質を飛散させずに(取り出しの)作業を進めるためです」 震災時、1号機は水素爆発を起こし、天井や壁が吹き飛び、設置してあったクレーンなども崩落した。大量のがれきも散乱したため、まずこれを撤去し、新たなクレーンを設置する必要がある。