Yahoo!ニュース

福島の今を知り、今後を考えた「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル」#知り続ける

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
福島薬局ゼロ解消RTの東京紀尾井町の対面会合の様子 写真:城西国際大学提供

 去る2022年2月24日、「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会」(注1)主催による「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル…地域復興のためのライフラインの必要性と課題」(以下、RTと称す)が、城西国際大学紀尾井町キャンパス(注2)で開催された。

 RTは、「東日本大震災から10年が経ち、原子力災害からの福島復興の加速に向けて避難指示解除が進んでいます。戻る住民のためにも、地域のライフラインの整備が必要です。避難指示解除後の地域における薬局開設に向けて課題を明確化して、今後の薬局のあり方について」考えるために、現地福島からも参加いただき、ハイブリッド形式で開催された。

現地の状況や課題を説明する吉成勇一朗さん  写真:城西国際大学提供(以下、同様)
現地の状況や課題を説明する吉成勇一朗さん  写真:城西国際大学提供(以下、同様)

現地報告をする大熊町の幾橋功さん
現地報告をする大熊町の幾橋功さん

 RTには、本テーマ関連の有識者である渡邉暁洋さん(岡山大学学術研究院医歯薬学域災害医療マネジメント学講座助教)、現地で活躍されている吉成勇一朗さん(福島市保健所保健総務課地域医療政策室室長)、幾橋功さん(福島県大熊町役場健康福祉課課長)、安部恭子さん(福島県双葉町健康福祉課専門保健師)、吉田幸子さん(浪江町健康保険課健康係)、遠藤博生さん(福島県富岡町健康づくり課課長)、現地での薬局開設を模索する岩崎英毅さん(I&H株式会社取締役)、国におけるこの分野を担当している太田美紀さん(厚生労働省医薬・生活衛生局総務課薬事企画官・医薬情報室長)らが参加し、「現場からの現状と課題」、「支援及び薬局出店検討上の課題」、「政府における政策課題についての認識」などについて議論した。またそれ以外にも現地や薬局などの参加者の方々からも様々な意見やインプットがあった。

現地報告をする双葉町の安部恭子さん
現地報告をする双葉町の安部恭子さん

現地報告する浪江町の吉田幸子さん
現地報告する浪江町の吉田幸子さん

 そして、このRTの議論を通じて、全体としては、次のようなことが重要なポイントであることがわかったといえる。

1.継続的できめ細かな現状把握の重要性

・原発事故の被災地の状況は、日々刻々と変わっている。

・同じ被災地域でも地域により、復興状況が大きく異なっており、その相違は今後ますます大きくなる可能性もある。また地域ごとの住民の特性やニーズ・意識も異なっている。

・上述のような状況から、現地の状況を絶えず把握し、それに応じた対応が必要である。またその状況において、的確な問題や課題の解決のためには、地域ごとのきめ細かな状況や住民のニーズ・意識を常時把握しておく必要がある。

政府の政策等について説明する厚生労働省の太田美紀さん
政府の政策等について説明する厚生労働省の太田美紀さん

2.従来の枠を超えた編集的創造的な視点の必要性

・このような状況から、薬局などのインフラの整備を考える際にも、従来の法的な枠や規制の考え方を超えた柔軟な対応が必要である。

・ICT活用、オンライン対応、モバイルファーマシー(薬局機能搭載の機動力のある災害対策医薬品供給車両)、ドローン配送、診療所・院内薬剤師、地域内薬剤備蓄など様々なツール・技術や仕組みを柔軟に組み合わせて、地域やニーズに応じて対応する必要がある。この視点から考えると、従来の「薬局」よりも、それらの新しいツールなどを組み合わせることで、スマホ画面の薬局像や新薬剤師像なども含めた、変化する状況に柔軟かつ的確に対応できる「調剤サービス提供の仕組み(新しい薬局)」を構想する必要がある。

・住民の意識・ニーズに合致する対人業務と対物業務の的確な組み合わせが必要である。

・避難解除による帰宅住民のニーズにあった医療や教育などをはじめとする地域の包括的なインフラや仕組みづくりが必要である。

・薬局などのライフラインの整備は、民間のビジネス的な面もあるが、社会的な側面もある。社会貢献も期待したいが、それだけでは持続的な維持・経営はできない。その意味では、地域住民、地域自治体(県市町村)、民間(企業など)や国が連携し、相互に補完し合う必要がある。またその際には、必要に応じて、中央省庁の違いや自治体の違いを超えた連携・協力のスキームなども必要である。

I&H株式会社の岩崎英毅さん(左)と岡山大学の渡邉暁洋さん(右)
I&H株式会社の岩崎英毅さん(左)と岡山大学の渡邉暁洋さん(右)

3.フクシマ問題の本質

・被災地の現状は、いわゆる「過疎の問題」が起きているわけではない。「過疎地」は、少子高齢化し、「人口が減少していく問題」だが、「フクシマの問題」はある意味で「人口が増えていく問題」であり、「過疎の問題」とは同じではない。

・また被災地の置かれた状況は、今後被災前の状況に単に戻ることではなく、避難指示解除の進展、従来住民の意識や別の生活の拠点ができている生活の現状、少子高齢化、新住民の転入、生活サービス機能や地域活動の拠点施設の再整備など様々な問題・課題があり、地域ごとにどのような「まち」になっていくかはいまだ非常に不透明で、未来予想図のない未来に向かっているということもでき、ある意味で「新しいまちづくり」に近い状況にあるといえる。

・このような複雑な「フクシマ問題」に対処していくには、上記の1、2で述べたような緻密かつ大胆な対応が必要である。

城西国際大学の黒澤武邦さん(左)と東邦大学の小林大高さん
城西国際大学の黒澤武邦さん(左)と東邦大学の小林大高さん

 主催者である「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会」は、その中心となり、以上のようなポイントを踏まえて、今後RTの成果を実現していくために、関係各所に働きかけながら、活動を続けていく予定である。

(注1)「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会」とは、福島における薬局ゼロの問題を解 消するための方策について考えるラウンドテーブルを開催するために、渡邉暁洋(岡山大学学術研究院医歯薬学域災害医療マネジメント学講座助教)小林大高(東邦大学薬学部非常勤講師)岩崎英毅(I&H株式会社取締役)鈴木崇弘(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科長)黒澤武邦(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科 准教授)が結成した実行委員会(任意団体)である。

(注2)RTの事務局は、城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科が担当した。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

鈴木崇弘の最近の記事