渋谷にARのキノコ雲、ウクライナ戦地を3D化 戦争をデジタルで伝える人たち #戦争の記憶
来年で終戦から80年。次第に先の大戦の経験者が少なくなるなか、戦争の伝え方をデジタルでアップデートしようと試みる人たちがいる。白黒写真のカラー化、原爆被害のデジタルアーカイブ化などに取り組んできたのは東京大学大学院の渡邉英徳教授だ。デジタル化によりアクセスしやすくすることで、戦争を身近に感じさせるとともに、新たな世代に受け継いでいくことができるという。渡邉教授や、報道や平和活動でデジタル化に取り組む人たちを取材した。(文・写真:科学ライター・荒舩良孝/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
渋谷駅前に立ち上がるAR「キノコ雲」
7月25日、炎天下の東京・渋谷。駅前のスクランブル交差点の前で、数人の若者が手に持ったスマートフォンをかざしていた。その画面を覗くと、スクランブル交差点の先にあるビルの背後から、原爆のような「キノコ雲」が立ち上がった。若者らは真剣な表情で画面を見つめていた。 「これは渋谷から1.5kmほど離れた代々木八幡あたりに、広島型の原子爆弾が投下されたときに発生するキノコ雲です。AR(拡張現実)技術を使ってシミュレーションしています」 こう説明するのは、ARコンテンツを制作した任意団体「KNOW NUKES TOKYO」の代表を務める中村涼香さん(24)だ。 長崎県長崎市に生まれ育った中村さんは、大学3年生だった2021年5月に、核兵器廃絶に向けて活動するKNOW NUKES TOKYOを立ち上げた。
今回の企画は、ウクライナ侵攻をするロシアが核攻撃を示唆したこともあり、できるだけ身近な形で核兵器の脅威をたくさんの人たちに伝えたいという想いから始まった。仲間と企画案を話し合ううち、中村さんの頭に浮かんだのが東京大学大学院情報学環教授の渡邉英徳さん(49)だった。 2010年、渡邉さんは長崎に原爆が投下された際の被害について、証言した被害者のいた場所や写真の撮影された場所を地図上に示し、原爆被害の実態を可視化する作品「ナガサキ・アーカイブ」(アーカイブは保存記録の意)を制作していた。 「私は高校生の頃、ナガサキ・アーカイブを使って長崎に修学旅行に来た人たちを案内する活動をしていました。その経験があったので、渡邉さんに協力を仰げないかと思ったのです」 連絡を取ると、渡邉さんからすぐに返信があり、2023年暮れには監修として協力を得られることになった。企画案を練った結果、原爆の象徴的な存在、キノコ雲をスマホのAR空間上で渋谷の街に出現させるという案にまとまった。 「キノコ雲を描くことについては長い時間をかけて話し合いました。長崎大学の先生や長崎原爆資料館の人たちにも意見を伺い、最終的に、きちんとメッセージ性があって、フェイクニュースなどに利用されないように対策をとれば大丈夫だろうという結論となり、制作にとりかかりました」