渋谷にARのキノコ雲、ウクライナ戦地を3D化 戦争をデジタルで伝える人たち #戦争の記憶
AR作品はアプリを通して今年8月1日から9月30日まで公開しているが、どんな反応があるかドキドキしていると中村さんは語る。 「キノコ雲という核兵器を象徴するモチーフを使って表現するにあたり、渡邉先生にいろいろと相談に乗っていただき心強かったです。表現はまだ完璧ではないので、公開後にいただいた意見も参考にしてアップデートしていきたいです」 中村さんたちのほかにも、戦前戦後の写真をデジタル技術でカラー化したり、ネット上のマップに配置したりして、新たな表現方法で戦争の記憶を未来につなげようとしている人たちがいる。その中心にいるのが、渡邉さんだ。
白黒の戦争写真をカラー化でリアルに
東京・本郷の東京大学の研究室。7つの縦長の大型液晶パネルが並べられた装置には、グーグルアース(立体的な街のつくりまで見える、グーグルによるデジタルの地球儀)による東京の高層ビル街の画像が表示されていた。装置の前に立つと、視界いっぱいに画像が広がる。渡邉さんが言う。 「大画面で見ると、没入感が違うと思います」
コントローラを操作すると、3D地図に古いモノクロの航空写真が重ねられた。建物が軒並み崩れ果て、大きな空き地が広がっているようだった。 「これは関東大震災が起きた直後に撮影された写真です」 現在の風景と同じ位置で過去の写真を見ると、平和な街にも大災害によって壊滅的な被害を受けた過去があったことがわかる。渡邉さんはこれまで戦争や災害の写真や映像に新しい技術を取り入れて、さまざまな表現を行ってきた。代表的なものが白黒写真のカラー化だ。 「2016年にカラー化AIが登場したときに、色がつくことで自分の受ける感覚が大きく変わることに衝撃を受けました」
そこで始めたのが、同じ日付の日に起きた出来事を伝える白黒写真を色づけしたものをTwitter(現在のX)で発信する活動だ。沖縄戦、広島と長崎への原爆投下、あるいは全国各地の空襲写真。渡邉さんは、当時のそうした写真を国内外から入手し、AIを使ってカラー化し、それらの情報をSNSで発信している。7月16日であれば大分空襲(1945年7月16日)のカラー化写真、7月26日であれば松山空襲(1945年7月26日)のカラー化写真をXで発信する。