渋谷にARのキノコ雲、ウクライナ戦地を3D化 戦争をデジタルで伝える人たち #戦争の記憶
「毎年、同じ写真を投稿していますが、そのたびに同じような感想をもらいます。初めて見た人もいるし、一度見た人でも記憶がよみがえるのだと思います。ただ写真を投稿するだけで終わるのではなく、写真をきっかけにたくさんの人たちと交流できることが重要です」 心がけていることは、デジタル技術を駆使することで、見る人がリアリティーをもって戦争を感じられるようにすることだという。 「モノクロがカラーになったり、3D技術で映像が立体化して見えたり。そうすることで、戦争が遠いことではなく、身近に感じられるようになる。いわば“他人事”から“自分事”に感覚が変わると、戦争とは何だったかを考えるきっかけになると思うのです」 もともと渡邉さんは戦争に関する研究者だったわけではない。大学卒業後、ソニー・コンピュータエンタテインメントに勤務し、ゲームソフトの開発をしていた。その後、大学教員に転身し、情報デザインやデジタルアーカイブの研究を進めていた。 すると、そんなデジタルアーカイブ作品を見た長崎の若者から声をかけられた。それがきっかけで、2010年、「ナガサキ・アーカイブ」を制作することになった。
「マップを生かしたデジタルアーカイブは、グーグルアースが誰でも使えるようになったことでつくりはじめました。以来、アーカイブに使うシステムを変えたり、文字情報や画像だけでなく3Dデータも配置できるようにしたりと、新しい技術をすぐに取り入れ、進化させています」 ナガサキ・アーカイブ以降、戦争や災害を伝えるための依頼や相談が盛んに持ちかけられるようになった。2011年のヒロシマ・アーカイブ、同年の東日本大震災アーカイブ、2012年の沖縄平和学習アーカイブ……。さまざまなデジタルアーカイブの制作につながっていった。
デジタル技術が戦争報道の新しいきっかけに
こうした戦争や災害のデジタルアーカイブは、テレビや新聞などの報道関係者からも注目を集め、デジタルコンテンツの制作やイベントなどを共同で実施するようにもなった。 2015年に、地方紙の沖縄タイムスと協力して、沖縄戦デジタルアーカイブ「戦世からぬ伝言」を制作。記者が戦争体験者に取材して得られた証言や生存者の足取りをデジタルマップに落とし込んだ。2023年8月には広島テレビなどと広島市内で、今年8月には長崎国際テレビなどと長崎市内で、戦争の光景を若い世代に伝えていくために「ミライの平和活動展 ~テクノロジーでつながる世界~」をそれぞれ共催した。