「必要な時点まで金融緩和を継続」日銀・黒田総裁会見7月21日(全文1)
安倍元首相の逝去は異次元緩和に影響を与えるのか
幹事社:それでは先に幹事社のほうから質問させていただきます。まず先日のことですけれども、安倍元首相が銃撃されて亡くなられました。黒田総裁は2013年の春に就任されてから異次元の金融緩和を導入してアベノミクスを支えられてこられました。異次元緩和のいわば後ろ盾であった安倍元首相の逝去によって、異次元緩和になんらかの影響が生じる可能性があるのか、お考えをお聞かせください。 また異次元緩和はまだ途上にありますけれども、日銀が目指す2%の物価安定の目標に達していないのは何がネックになっているとお考えでしょうか。日本経済の成長に向けて日銀の金融緩和がどのように役割を発揮していくかと併せてお答えを願います。 黒田:あらためまして安倍晋三元総理のご逝去を悼み、ご冥福を心よりお祈り申し上げます。ご逝去の影響については私の立場からコメントすることは差し控えたいと思いますが、日本銀行としては自らの使命である物価安定の目標の持続的・安定的な形での実現を目指して、金融政策を実施していく考えに変わりはありません。 この9年余り、政府のさまざまな施策と日本銀行の強力な金融緩和の下で、日本経済にはデフレ期には見られなかった変化、例えば9年連続のベースアップの実現、女性や高齢者を含めた雇用の大幅な増加などが見られました。物価が持続的に下落するという意味でのデフレではない状況が実現しました。 ただし2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現にはなお至っていないのは事実であります。その主な理由としては、わが国では長きにわたるデフレの経験によって定着した物価や賃金が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く、その転換に時間を要していることが挙げられると思います。
日本経済の中長期的成長を金融面から支えたい
とはいえこの間の大規模な金融緩和は経済・物価の押し上げ効果をしっかりと発揮しております。実際、昨年3月の点検でも確認したとおり、大規模な金融緩和が行われなかった場合と比べると、実質GDPの水準は平均プラス0.9%から1.3%程度、消費者物価の前年比は同じくプラス0.6%から0.7%程度押し上げられていたとの試算結果を得ております。 従って引き続き金融緩和を実施していくことで、時間は掛かるかもしれませんが、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を実現することは可能であると考えております。この点、今回の展望レポートでは前回レポートと同様に、生鮮食品とエネルギーを除いたベースの消費者物価は2024年度にはプラス1.5%まで上昇率を高めていく見通しとなっております。 人口減少社会において成長率を高めていくために重要なこととしては、なんといっても企業による人的資本に対する投資、あるいは生産性を高めるための投資を実施していくことなどが挙げられております。この点、緩和的な金融環境を維持することは金融面からそうした投資を支える効果を発揮してきたと思っております。引き続き日本経済の中長期的な成長について金融面から支えていきたいというふうに考えております。 幹事社:ありがとうございます。もう1問お願いします。アメリカの利上げ加速観測から円安ドル高が進んでいます。最近では一時1ドル140円に迫る場面もありました。黒田総裁は前回の会見で、急速な円安は日本経済にとってマイナスと述べられていましたが、この急速な円安が日本経済にもたらす影響をどのように見ていらっしゃいますでしょうか。