災害大国日本が挑む「誰一人取り残さない社会」 ~情報弱者を支えるテクノロジー~(片岡祐子/岡山大学病院聴覚支援センター 准教授)
2018年夏の西日本豪雨。3日間降り続いた雨はさらに激しさを増し、岡山県西部を流れるなじみの小田川は見たこともないほどに水位を上げ濁流が激しく荒れ狂っていた。得体の知れない恐怖を身に覚えたことは、今も鮮明に記憶へ焼き付いている。今夏は各地で自然災害が相次ぐ。インクルーシブ(包摂的)な防災のあり方について考えたい。
重要なのは「一刻も早く気付くこと」
日本は災害大国だ。2023年に国土交通省が出した統計によると、活火山の数は世界の8.3%を占め、マグニチュード6以上の地震は同16.9%に上る。加えて国土の約75%を山地が占め、年間降水量も世界平均を大きく超える。すなわち急峻な地形に大量の雨が降るため、土砂災害も発生しやすい。小さなものも含めると自然災害は常であり、その度に行方不明者・死者の発生が後を絶たないのが現状である。
では、災害や緊急事態において、一番に重要となることは何か。この問いに対する答えはシンプルだと思う。「一刻も早く気付くこと」だ。
もちろん適切な逃避、その後の心身の状態保持等々、災害時・緊急時にはさまざまな要求が生じてくる。しかしながらまず必要なのは、一刻も早く危険性に気付いて安全を確保し、迅速かつ適切な初期対応を行うことだ。それにより生命の危険や二次災害の可能性は各段に低下する。
情報弱者になりやすい聴覚障害者
では、どういう手段が迅速な危険認識に有効なのか。地震のように自ら体感できるものもあるが、一般的にはサイレンや警報、自治体からのメールなどで認識する場合がほとんどだ。特に昨今は情報通信手段が発展したことで、刻々と変化する気象や災害状況にも対応する情報がリアルタイムで入手できるようになった。
それでも一定数の「情報弱者」は存在し、認識の遅れから危険にさらされる確率が高くなる。通信機器を持たない小児や高齢者、非都市部に居住する者、身体の障害がある者などがそれに当たる。中でも緊急情報の第一報で高頻度を占める防災サイレンやアラート、放送などが聴き取れない、聾(ろう)・難聴といった聴覚障害者は殊更に情報弱者になりやすい。