酔いつぶれた女性検察官を自宅に連れ込み…「関西司法のエース」検事正の性暴力の罪深さ
告訴した女性の副検事と同じ職場に
女性は、検察庁に対しても何度も速やかに調査し、処分してほしいと訴え、10月1日にこの女性副検事を告訴したが、今もその副検事は検察庁で働いている。それどころか被害女性を副検事と同じ職場に復職させた。 寺町さんはこの点についてもこう指摘する。 「検察庁は、加害者の犯行を認定したから起訴し、彼女が被害者であることを認めているわけです。彼女が安心して職場復帰できるようにするのは検察庁の雇用主としての義務です。 北川被告を起訴した以上、副検事が『同意もあり、金目当て』などと話してているのも嘘だと認識しているはずです。本来なら副検事を異動させたり、調査するなら出勤停止したりするべきで、被害女性と副検事を同じ職場するのは雇用主として安全配慮義務違反だと思います。 職場でこうした事件があった場合、基本的には被害に遭った人が希望すれば元の職場に戻すのが原則。ですが実際は、被害者が異動させられたり、場合によっては左遷させられるケースもあります。ただ、元の職場に戻せばいいかと言えばそう単純ではなく、激務な職場であればPTSDなどがより深刻になるケースもあるので慎重な対応が求められます。元の職場に戻せないという判断をするのであれば、被害者本人に対する理由の丁寧な説明と本人の同意、納得感がなければ被害者を守っていることにはならないのです」
彼女のような検察を失うのは社会的損失
今回、女性は6年にもわたって被害を訴えることができなかった。ヒエラルキーが厳しい組織で上司を訴えることが困難であったことや、捜査されず握りつぶされてしまうのでないかという怯えがあったからだろう。こうしたケースを想定して、検察の外部に被害を相談できる窓口が必要だと、寺町さんは指摘する。 「一応検察庁には監察指導部情報提供窓口というのはありますが、最高検にあるので内部です。外部通報窓口があった方がいいと思うのは、外部の人が把握すれば、検察としてもうやむやにできなくなります。 検察は今回の件を刑事事件とは別に、第三者を入れた調査委員会を作り、なぜ本件のような加害・被害が起きたのか、なぜ女性副検事と同じ職場に戻したのか、また彼女が受けたような被害が他にもないか、調査すべきです。その上で再発防止策を検討してほしい。そして何より検察は組織として彼女に謝罪して欲しいと思います」 今法曹界に女性が占める割合は増えており、裁判官では28.7%(2023年12月時点)、検察官が27.2%(2023年3月時点)、弁護士が19.8%(2023年3時点)に上る。特に検察は新たに任官される中で女性が3割から5割近くを占めている。その女性たちが安心して働くためにも検察は自ら組織改革に取り組む必要がある。そして2024年の司法試験では、合格者のうち初めて女性が3割を超えた。 寺町さんは最後にこう話した。 「性犯罪による精神的被害やPTSD、自分を責めてしまう気持ち、訴えたら自分は職を失うのではないかという恐怖……被害者に起こるあらゆる事柄を彼女は体験しました。先日の会見はそれを法律家として言語化できるのは自分しかいないという強い覚悟の表れで、性犯罪を絶対に撲滅したい、という彼女の仕事にかけてきた強い思いが込められていました。 だからこそ、彼女には酷かもしれないけれど、どうか検事をやめないで欲しい。性犯罪捜査に本気で取り組んでくれる検事がいることが、社会にとって、私たちにとっての拠り所であり希望です。どんなに訴えても検事が頑張ってくれなければ性犯罪を立件し、処罰することはできない。彼女のような検事を失うのは、社会にとっても大きな損失なんです」
浜田 敬子(ジャーナリスト)