生成AIは創作者の仕事を奪うのか? 脚本家や漫画家、編集者の場合
日本で脚本家ストが起きない理由
ただ、疑問だ。であればなぜ、ハリウッドの脚本家たちは「仕事が奪われる」と懸念して2023年にストを起こしたのか。 ハリウッドの脚本家と俳優のストライキが終結 ―AIの利用制限などに合意 https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2023/11/usa_02.html 小林氏の答えは明快だ。日本とハリウッドでは脚本の位置づけがかなり異なるからである。 「ハリウッドでは、脚本家がオリジナルの脚本を書き上げてから、その完成脚本をエージェントを通じて映画会社に売り込むことができます。映画会社は面白い脚本を見つけたら無名であってもピックアップして、大予算をつけて著名監督に撮らせる。そこに夢があるわけです。なので、もし映画会社が生成AIを使ってオリジナル脚本を安く作ることができたら、お金を払って脚本を買い取る必要がなくなってしまう」(小林氏) 脚本家の商売あがったりだ。もしくは、映画会社がオリジナル脚本の第一稿を生成AIに作らせ、脚本家にその手直しを任せることになれば、脚本家の収入も地位も大きく下がる。脚本家としてはそれは絶対に避けたい。 「米国の映画の大学では、物語の元ネタ、たった3行のログラインをしっかり作れと指導します。それくらいアイデア至上主義だし、その3行が莫大なお金を生むので。にもかかわらず、映画会社やプロデューサーがAIを使い、過去のさまざまな脚本のデータを収集して物語の核を作っちゃったら、いったい何なんだよ、という話で」(小林氏) 一方の日本ではハリウッドのように、脚本家がオリジナル脚本を書いて営業する習慣がない。小林氏が言うように、脚本家は脚本を書くだけでなく、「調整屋」としての役割も大きい。さらに日本の場合、原作ものの映像化や、世界観が確立しているゲーム・小説・漫画など既存IPの映像化案件も多いため、ハリウッドのように「第一稿のオリジナリティを生成AIが奪う」懸念が生じにくい。それゆえ小林氏が身を置く脚本家界隈では、「生成AIによって仕事を奪われるはずがない」という空気が大勢を占めるという。