生成AIは創作者の仕事を奪うのか? 脚本家や漫画家、編集者の場合
生成AIが創作の場に広く進出している。現状、生成AIの用途はまだまだ限定的だが、このまま進化を遂げれば、より完成度の高い物語や、完成稿に近い映像シナリオ、より完成原稿に近い漫画を作り出せるようになるのは、時間の問題ではないか? 今回は前回に続き、『東京トイボックス』『南緯六〇度線の約束』などで知られる漫画家ユニット・うめの企画・シナリオ・演出担当である小沢高広氏と、『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』ほかアニメ・特撮分野の脚本を多く手掛ける脚本家の小林雄次氏に、ずばり「生成AIは人間の仕事を奪うのか」をぶつけてみた。 【詳細な図や写真】やっぱり背景は描いてほしい~ちゃんと“もつ”背景を描いてみる~(出典:小沢高広「漫画制作における生成AI活用の現状:2024春」)
脚本家の仕事はAIに奪われるのか?
小林氏は開口一番、「生成AIが完成度の高いシナリオを書けたところで、それによって脚本家の仕事は奪われないでしょう」と言い切った。 「大半の商業作品の脚本は、必ずしも脚本家の個性や資質だけに頼って書いてるわけじゃないんです。監督やプロデューサーや出資各社それぞれの意見を、物語だけでなくキャラクターのセリフレベルにまで極力全部反映して、破綻なく成立させる。脚本家とはそういう仕事です。そのチームが望んでいる最適解をシナリオに落とす役、ですね」(小林氏) 脚本家が初稿で書き上げたシナリオがそのまま通ることはまずない。会議で出たさまざまな意見を脚本家はすべて書き留め、次の稿に反映する。その稿にもたくさんの意見が寄られ、また反映する。それを何度も繰り返す。筆者が居合わせたある現場では、脚本が10稿以上も重ねられ、物語の展開や登場人物の印象が、初稿からは目に見えて変わっていた。 「しかも、会議で出された意見を言葉どおり反映するだけではダメで、言葉の裏も汲まなければなりません。『あのプロデューサー、ああ言ってたけど、本心ではこうしてほしいんだろうな』みたいに推し量る必要がある。言外の意図も汲んだ直しをすることも含めて脚本家の仕事です。これはもう、経験値でしかこなせない」(小林氏) 「好きな題材で好きなように書き、その完成度を上げていく」ことだけで言えば、生成AIの創作スキルは上がる一方であろう。ただ、ビジネスの場において代わりになるかという話で言えば、こと脚本家という職業については、代わりにはなりえない。生成AIに「完成度の高いシナリオを書かせること」自体はできても、「脚本家の仕事」を代行することはできないのだ。