生成AIは創作者の仕事を奪うのか? 脚本家や漫画家、編集者の場合
漫画編集者の仕事は奪われるのか
小沢氏の説明した状況を別の面から示すのが、日々発表される漫画作品の多さだ。現在、漫画の供給元はかつてのように紙の定期刊行雑誌とコミックス(単行本)だけにあらず。あまたの漫画アプリによる供給は言うに及ばず、個人がXなどのSNSや個人サイトで発表する作品も合わせれば膨大だ。今、漫画は、描き手も作品もものすごく多い。それは小沢氏も強く感じている。 「描きたい人がすごく増えてるんですよ。僕らがうめとしてデビューした1990年代後半、ある雑誌で年に4回ある新人賞の応募総数は、1回あたり400作品で、当時30人くらいいた編集部で回し読みしていました。今は、下手したら毎日その数が送られてくる」(小沢氏) 描き手と発表メディアが爆発的に増えたことで、世に出回る漫画作品の絶対数が爆増した。しかも「駄作が多いかというとそんなこともなくて、読むと、どれもちゃんと面白い」(小沢氏) それが何を意味するか。漫画編集者の不足だ。 「あくまで体感ですが、編集さんひとりあたりが抱えている作家の数が近年ものすごく増えています。背景には作品数の増加もあるけど、もう1つはオンライン打ち合わせが可能になったことでしょうね。移動が必要なくなったので、物理的にたくさんの作家さんの担当を持ててしまう。結果、ひとりの編集さんが殺人的な量の作品を担当しなきゃいけない」(小沢氏) 結果、漫画家は編集者に、長時間ブレストに付き合わせたり、アイデア出しや打ち返しを期待したりできなくなった。編集者のやる気や志の問題ではない。単に時間的な問題として。その代わりをChatGPTが担う。 「基本的な物語の流れや世界観、主なキャラクター、作品のタイトルなどであれば、編集さんに時間を作ってもらい対面でブレストをしますが、端役や小道具のネーミングについて、いちいち対面で付き合ってくれって言いづらいじゃないですか。昨今の働き方改革的な意味でも(笑)」(小沢氏) 5年先、10年先はわからない。しかし現時点の日本の漫画業界においては、生成AIが多少のコスト削減を実現しようとも、そこにアシスタントや編集者や失職するほどの影響力はないようだ。