「絶対にみんな喜んで死んでゆくと信じてもらいたい」…特攻に選ばれた若者たちが見せた「出撃前夜」の「あまりに異様な様相」
セブの士官宿舎にて
米側の記録と突き合せてみると、この日、葉櫻隊の突入を受けたのは、空母「フランクリン」「エンタープライズ」、軽空母「ベロー・ウッド」「サン・ジャシント」を中心として編成された第三十八・四任務群だった。 米側記録では、「フランクリン」「ベローウッド」が大破、2隻あわせて148名が戦死、または行方不明となり、飛行機59機が破壊された、とある。2隻は修理のため、アメリカ本土に回航された。「サン・ジャシント」は、2機の特攻機に狙われたが、1機は艦首すぐ近くの海面に墜ち、大きな水柱を上げた。もう1機は体当り直前に対空砲火で撃墜、艦の真上で特攻機が爆発する写真が残っている。「エンタープライズ」を狙った1機は、飛行甲板をわずかに飛び越え、左舷側の海面に突入、爆発。米軍はさらに、2機を対空砲火で撃墜したという。 戦艦に相当する記録はないが、米軍の損害の記録が正しいとして、状況から考えれば、角田の戦果確認はまずまず正確なものであったといえる。 その夜、セブ基地にほど近い山の中腹にある士官宿舎では、中島少佐の音頭とりで「天皇陛下万歳」三唱が繰り返され、戦果を祝う宴が催された。 セブの士官宿舎は立派なコンクリート造り2階建ての、もとは役所の庁舎に使われていたという建物で、室内には煌々と電灯がともり、窓には遮光用のカーテンが引いてある。 ビールの栓が抜かれ、乾杯が行われ、士官たちの間で賑やかに話がはずむ。だが、下座の片隅に控えていた角田は、昼間見たばかりの特攻機突入の光景が眼の底に焼きついていて、笑う気分にはとてもなれなかった。 いたたまれない思いでいたところ、第二小隊の直掩を務めた予備学生十一期出身の畑井中尉も同じ思いだったらしく、 「角(つの)さん、どうも今夜はここで眠れそうにないですねえ」 と話しかけてきた。 「兵舎へ行って搭乗員室に泊まりましょうや」 角田は答え、2人でそっと宴席を抜け出した。