成熟し、悟りの境地の後に辿る運命……人類が滅亡する4つの理由を考える
人口が減少し、社会の成長が見込めない時代といわれます。一方で、科学技術の進化が、高齢化の進む日本の未来を、だれにとっても暮らしやすい社会に変えるのではないかともいわれています。わたしたちは一体どんな社会の実現を望んでいるのでしょうか。 幸福学、ポジティブ心理学、心の哲学、倫理学、科学技術、教育学、イノベーションといった多様な視点から人間を捉えてきた慶応義塾大学教授の前野隆司さんが、現代の諸問題と関連付けながら人間の未来について論じる本連載。7回目は「人類が滅亡する4つの理由」を論じます。 ----------
人類滅亡の理由とは何か
今回は、人類が滅亡する4つの理由について書こうと思います。もちろん、滅亡を願っているわけではなく、人類に警笛をならしたいと思うからです。では、4つの理由とは何か。 1 環境破壊・パンデミック 2 世界戦争 3 シンギュラリティー 4 老化と悟り それぞれについて、述べていきましょう。 まず、1の環境破壊とパンデミック(感染症の世界的な流行)。 みなさんご存知のように、二酸化炭素の排出による環境破壊や温暖化が進んでいると言われています。「いやいやそれはどこかの国の陰謀で、実は寒冷化に向かっているのだ」などの論もあるものの、環境破壊が進行し温暖化が進行していると考えるのが多数派でしょう。もちろん、多数派が必ず正しいとは限りませんが、多くのデータから推測するに、可能性は高いというべきでしょう。 JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターによる図1では、2100年には1.1度から6.4度の間で気温上昇が起きることを予想しています。このグラフを見ると、20世紀以降の人為的な環境破壊の影響は凄まじいと思わざるを得ません。
想定外だけに予測できない
しかし、冷静に考えてみると、これまでの何十億年という歴史の中で、生物が増殖して地球環境を変えるということは何度も起きたことです。まだ動物がいなかった頃、植物が地球上に繁殖し、植物が排出する酸素によって、それまでよりも地球が圧倒的に酸素だらけになった結果として、酸素を取り入れて生きる動物が生まれました。要するに、植物が地球環境を激変させてくれた結果、私たち動物が生まれることができたわけです。これもある種の環境破壊ですよね。 今回は、人間が地球環境を変え、その結果大きな気候変動が起きそうだというわけですから、まあ、生物による地球環境破壊の歴史に新たなパターンが加わりつつあるというだけかもしれません。 とはいえ、平均気温が何度か上がるということによって、予想もできないことが起きると言われています。ただ数度だけ暑くなる、というだけではないかもしれないのです。バランスが崩れると、カタストロフィック(断続的)な変化が起こる可能性が高いのです。 例をあげましょう。 サーカスのピエロがボールの上に乗ってバランスを取っているとしましょう。ピエロがバランスの取れる範囲にいるとき、ピエロは不安定なボールをなんとかコントロールし、その上に立っていることができます。仮に、ボールの回転が10度以内ならば、ピエロはうまいことボールの上に立っていられるとしましょう。ボールが11度回転してしまったら、どうなるでしょう。うまいこと制御してバランスをとれる範囲を超えますので、ピエロはボールから落ちてしまいます。ピエロはこれまでいつもボールを制御できる範囲にいて転んだことがなかったのだと仮定とすると、転んだ後の世界は未体験で全く予想がつきません。 温暖化とは、このような感じかもしれないのです。気候変動がある温度範囲内ならば、多少の異常気象が生じるくらいで、あまり問題はないかもしれません。しかし、ある範囲を超えると、全く予想もできないような、思いもよらない変化が起きるかもしれないのです。 具体的にシミュレーションしたわけではないし、そもそも想定外のパラメータの影響はシミュレーションしようがないので、単に可能性としか言えないのですが、もしかしたら、思いのほか近い将来に、人間が生き延びることができないほどの地球環境の変化が生じる可能性だってあります。 気温の変化が思いも寄らないやり方で人間にダメージを与える例の一つは、パンデミックでしょう。暖かくなった地球上で、疫病か、何か、人間にとって有害な生物が異常繁殖する可能性は否定できません。高温多湿の環境下で猛烈な勢いで繁殖する、見たこともない新生物が生じた時、人類が瞬く間に絶滅する(ないしは大幅に数を減らす)可能性は、小さいとは言えないでしょう。もちろん必ず起こるとも言えませんが、火山の噴火や地震とそんなに桁違いではない確率で起こり得ると考えるのが、常識的・科学的な予想の範囲だと思います。 しかも、想定外の変化は、想定外だけに予測できないということが重要です。予測できないから、時間をかけなければ対処することができない。つまり、対処が間に合わない可能性があります。 以上のように、数十億年という地球の歴史の中で、明らかに地球史上最大の急激な変化を、人類はすでに起こし始めています。取り返しのつかないほどの変化を。 先が読めないだけに、後手後手になっていますが、どう対処するかを各国間で争っている場合ではなく、最重要課題として、世界が連携して対処すべき緊急の課題です。