「いってきます!」お疲れモードの南沢奈央の背中を押した“おかえり”にまつわる物語
主人公は、「おかえり」こと、丘えりか。元アイドルで、旅番組のレポーターとして活動している。だが、あるロケで、おかえりがスポンサーの名前を間違えてしまったことが原因で、番組が打ち切りに。所属する事務所にとっても事務所を支える唯一の仕事だったため、頭を悩ませる。営業に奮闘する日々だが、打ち切りの原因も相まって新しい仕事はなかなか決まらない。 そんなある日、見知らぬご婦人が事務所にやってくる。 「旅をしていただけませんでしょうか。わたくしの娘の代わりに」 もともとおかえりのファンで、病気で旅に出られない娘のために、代わりに秋田の角館に行ってほしいと言うのだ。家族の事情や病状などを聞き、おかえりは、この依頼を引き受ける。そうして、旅代理人「旅屋おかえり」は、旅を通して、人々の思いを叶えていく――。旅でその土地の人と出会い、その土地の食を味わい、空気を吸う。その心身の交流がとてもあたたかく、優しく描かれる。 依頼主の願いを叶えるべく、旅の前にはロケスケジュールを組むかのように綿密に計画を立てていくが、そう思うようにはいかないのが旅。雨が降るかもしれないし、目的の人に拒否されるかもしれない。そのことに気付き、思いがけない旅の成り行きを、あえてのびのびと自由に、そして素直に楽しむおかえり。それはきっと、「おかえり」の一言があるから。そんな旅する姿がとても輝いて見えて、やっぱり旅っていいなぁと思われるのだった。 わたしも「おかえり」と言われたい。そうなるとやっぱり、まずは「いってらっしゃい」って言ってもらわなきゃいけない。よし、とりあえず飛び出してみよう。気が付いたらそんな気分になっている。 旅じゃなくてもいい。日常から飛び出して、新しい場所へ。いってきます!
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