《薄井シンシアさん&木下紫乃さん対談》女性活躍への疑問「子育てと仕事を両立できないのに、建前しか言わない企業は淘汰される」
シンシアさん「建前論の会社は捨てればいい」
――そういう会社に属してしまった人は、どうすれば良い? シンシアさん:会社を捨てればいい。 紫乃ママ:世の中にはたくさん会社があるから、選べばいい。我慢を手放す。うちの会社には、シンシアさんや娘さんが属しているクラスの人はあまり来ないけれど、自分の会社が世の中の変化に対応できてなくて制度疲労を起こしているのに「変えられない」と思って、ボロボロになるまでやり続けている人が多い。仕組みに疲弊しているのに「ここで耐えればいい」と「おしん」みたいな状況になっている。 物事を変えるにはストレスがかかるから、我慢する方が楽なんですよ。勇気がない。でも、制度をつくるのは上の人間なのだから、下から声を上げないと企業は変わらない。周りの人と組んで代替案を出さないと、自分も楽にならないし、次に続く人は、もっと楽にならない。 彼らには「オーバーフローしている時に『やれない』と声を上げることも一つのメッセージだから、ちゃんと上司と話しなさい」と言うんだけど、「上司にそんなことを言っていいんですか?」って言うんですよ。「上司だって改善する情報は欲しいはずだし、会社全体で見れば良いことだから、声を上げないとダメ。言わないのは、ある種の職種怠慢だよ」みたいな話を、やんわりした表現で伝えます。でも、日本人は教育の段階から「言われたことを言われた通りにしなければいけない。できない自分はダメだ」と徹底的に刷り込まれている感じがします。 ――上司に訴えたら「我慢して築いてきたものが壊れる」と不安なのでは? 紫乃ママ:何を築いてきたの? 我慢してボロボロになって、それなりのキャリアになったということ? なぜ、それがすべて無くなると思うのかがわからない。 シンシアさん:いや、組織に反対すれば全部失います。会社に物を申すなら、辞める覚悟で言った方がいい。
紫乃ママ「貶める人がいるところに、心がずたずたになるまでいなくていい」
紫乃ママ:そうね。言い方もあると思いますけどね。うちは昼間から営業しているから、心も体も折れて休職している人も訪れます。「休職するまで働かなきゃ良かったのに」と思うけど、言ってもしょうがないから言いません。でも、ここで立て直したとしても、同じことの繰り返しでは意味がないから「元気になったらオーバーフローしている仕組みを考え直そう。変えないと、同じことの繰り返しだよ。仕組みを変えることは会社の成果になるし、心ある上司もいるだろうから、やってみたら?」と伝えます。 シンシアさん:それは、ちょっと違う。弱い人や壊れている人に言っても何も変わらない。権力者に話をしても、たぶん変わらない。そういう職場は、こっちから捨てて社会から淘汰されればいい。 紫乃ママ:でも日本の企業ってあまり淘汰されないじゃないですか? シンシアさん:時間の問題よ。 紫乃ママ:少しずつ淘汰され始めているのかもしれませんね。私が大学院へ行ってた時、ものすごく優秀だった若者たちは日本の大企業を選びませんでした。企業側は「ネームバリューで入ってくる人たちがいるから大丈夫」と思い込んでいるけれど、グローバルな視点で見ると、かなり質が低下しているはずです。 シンシアさん:入社しても2、3年で辞めますよ。そこで辞められない人たちはお金が理由だと思います。 娘は新卒で外資系金融会社に入って月曜から日曜まで働いて高い給料をもらっていました。平日は午前1時か2時に帰宅して、その後もニューヨークから電話がかかってきたりしていました。午前7時にタクシーで帰宅して、タクシーを待たせたままシャワーを浴びて会社に戻ることもありました。高い給料もネームバリューもあるけれど、子育てができる環境では無い。でも、それだけ給料が高ければ入社したい人はいます。次の道を選べない人は自分の価値を下げたくないだけなんですよ。下げればいくらでも仕事はある。 紫乃ママ:おっしゃる通り。みんな「仕事がない」と言うけれど、いくらでもある。自分を貶める人がいるところに、心をズタズタにされてまでいる必要はない。ずっと会社以外の人たちと交流せずにきて、ほかに選択肢があることを知らない人もいます。