一度目指した警察官からレーサーへ。沖縄のカート場育ちで原動力は”感謝の心”【KYOJO CUPインタビューVol.1/翁長実希】
女性ドライバーだけのガチンコレースとして、近年注目度が上昇中のKYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーの素顔を探るべく、2024年シーズン第1戦で優勝を果たした翁長実希(#114 Car Beauty Pro RSS VITA)に、レーシングドライバーとしての自身のルーツ、そして今季について話を聞いた。 【写真】翁長カーナンバー『114』は、大好きな映画トップガンに登場する航空機の機体番号にちなんでいるという ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ⎯⎯KYOJO CUP第1戦で見事に優勝を飾りましたが、開幕戦についての感想を教えてください。 翁長実希(以下、翁長):速さを求めるうえで予選ポールポジションは獲りたかったのですけど、2番手に甘んじてスタートして、序盤はトップに立てたのですけど、中盤のぺースが落ち込んでしまって。最後の3ラップくらいで、前の車両(斎藤愛未)のブレーキングが甘くなってきていたのを感じたので、自分はブレーキを少しずつ詰めて最後の1周にかけてアタックを続けていました。最後の1周をどこで仕掛けるか、というところで『1コーナーしかない』と思いっきり飛び込んで、それが功を奏したレースでした。(トップ争いをしていた斎藤愛未と)お互いリスペクトし合っていいバトルができて、それを制することができてとても嬉しいですね。 ⎯⎯これまでさまざまなカテゴリーに参戦していますが、KYOJO CUPの他のカテゴリーと比べての難しさ、面白さを感じている部分を教えて下さい。 翁長:女性だけのプロレースで、イコールコンディションで女子のトップを決めるレースなので、そこで結果を出すことには意味があって、魅力のひとつだと思います。あと、車両がフォーミュラと箱車の間のような、非常に軽くてパワー感がそれなりにあります。電子制御がないので自分のドライビングがそのまま出ますし、ダウンフォースが少なくていろいろなところでバトルが行われているので、レースに参加してても、外から観ていてもとても面白いカテゴリーだと思っています。 ⎯⎯なるほどです。それではご自身のモータスポーツのルーツについて教えてください。最初に始めたきっかけ、そして職業として関わりたいと思ったタイミングはいつだったのでしょう。 翁長:沖縄県の出身で、実家が1周400メートルぐらいの小さなゴーカート場を経営していました。どこか遊びに連れて行かれるとかはあまりなく、ただクルマだけは与えてもらって、ひたすらサーキットを走っていました。そこに平良(響)選手や平安山(良馬)選手が来たり、ずっとレース自体は好きで続けていたのですけど、将来の目標としては、警察官になろうと思って大学も公務員専攻のところに行きました。 ただ、大学に入学して1、2年目のときに本土でカートレースに参戦するチャンスを頂いて、自分がずっと続けてきたことが結果につながってきたときに本気でやってみたいと思いました。そこで警察官になるのをやめて大学を卒業して、あてもなく御殿場に引っ越してきて、御殿場のみなさんによくしてもらいながら、お仕事も頂いています。(現在の在籍チームである)RSSにお邪魔させてもらい、社員ドライバーとしていまは86とVITA-01のレースに出させてもらっています。 ⎯⎯公務員をやめてレースの道に進むことについて、ご家族はどんな反応でしたか。 翁長:(レースを)やりたいということはずっと伝えていました。人との関わりや、生きていくうえで大事な部分はレースで学べるので、そういった意味で続けさせてくれていたんですけど、プロになることは特に両親は考えていなかったようです。でも、私がはじめて本気でやってみたいということを伝えたときに応援してくれました。それでも大学はやめさせてはくれなかったですね。『ちゃんと卒業しろ』と(苦笑)。 ⎯⎯そこまでレースにのめり込めた理由を教えてもらえますか。 翁長:サーキットの家系として生まれてきて、クルマも好きなのですけど、クルマとかレースに関わる人たちがすごく好きなんです。このように言うのは生意気かもしれないですけど、沖縄でこれだけチャンスをもらえてる人は本当に珍しくて、応援してスカラシップやレース参戦のチャンスをくださった人たちも、自分の恩返しをしているんだという人たちばかりだったんですよ。 だから自分も沖縄に恩返しができるような人になりたいです。自分が目指してるとこまで行った後、その恩返しというのをずっと意識しています。警察官は目指せば他の人もなれるかもしれないけど、自分だけができることはレースで恩返しをすることかなと。 ⎯⎯さきほど社会人ドライバーと仰っていましたが、普段働いている職場はRSSなのでしょうか。 翁長:そうですね、レースガレージに普段在籍をしていて、仕事としては、月末月初の請求書をしっかり作るところと、自分がレース参戦するためにマネージャー的な業務もやりつつ、プロのレーサーとしてお仕事をいただいてインストラクションや、メーカーさんのイベントなどにも呼んでいただいているので、レース、インストラクター的な業務、事務的な業務、3本柱で今はやってるような感じですね。 ⎯⎯自分自身のドライバーとしての長所、そして課題と思う部分を教えてください。 翁長:課題は予選でポールポジションが獲れないことです。大事なときに速さを証明するのは予選なので、そこでしっかりと結果を出すことは課題ですし、メンタリティの部分なども、まだまだもっとやらなくてはいけないと思います。長所としては、予選がどんな位置でも決勝では絶対に上がってくるというところです。開幕戦のブレーキング勝負だったり、どんな位置でも果敢に攻めていきますし、決勝の強さには自信がありますね! ⎯⎯メンタリティに課題があるとのことですが、レース中に不安を感じることはありますか。 翁長:今回(第2大会の予選後)のように、みんなが速くて同じくらいのタイム差を見ると、自分の足りない部分が判明したりすると不安を感じやすくて、それが顔に出ちゃったりしますね。それでも、クルマにも『ありがとう』『よろしくね』と語りかけて、サポートしてくれたみなさんに感謝する気持ちを忘れないでいることで、最近はリラックスして行けるようになってきました。 ⎯⎯同じドライバーとして、理想としているドライバー、憧れのドライバーがいましたら教えてください。 翁長:同じ女性ドライバーでは、GR(TOYOTA GAZOO Racing)ドライバーのお仕事をされて、ニュルブルクリンク24時間レースへの参戦経歴などがある佐藤久実選手です。ニュルは耐久レースなので体力もしんどいですし、男性ドライバーと組むので大変なところもあったと思うのですが、そこで戦力として選ばれて自分の仕事をできているところには、すごくリスペクトがあります。レースを始めようと思ったきっかけの人物なので尊敬しています。 ⎯⎯女性がレースに参戦することの難しい点、そしてメリットと思われる点を教えて下さい。 翁長:KYOJOみたいに男女が分かれていると、体はイコールな状態で勝負ができるのでいいと思いますけど、そのなかでもホルモンバランスの調整が難しかったりなど、女性特有の難しさがあるかと思います。そこまで意識してやると、男性と一緒にレースをしたときにスタートラインから違ったりするのかな、とは思いますね。 筋力的に男性と比べて一番差が出る部分はブレーキングだと思います。(KYOJOで使用している車両の)VITA-01はまだ車重が軽いので良いんですけど、GTのトップカテゴリーなどになると、三浦愛さんも言っていますがブレーキングの踏力、1発で踏む力が全然足りないです。(男性と女性では)筋肉量が違うので、それを補うための時間と努力が必要になってくると思います。 FIA-F4に乗ったこともありますけど、そこからスーパーフォーミュラ・ライツ、スーパーフォーミュラとなったときに、そこで勝負できるかということはまだ証明されていないので、自分たちにどれくらいの可能性があるのかは、正直まだ未知数なところはあるのかなと思います。 ⎯⎯この先、どういったドライバーになりたいというビジョンはありますか。 翁長:スーパーGT GT300クラスのレギュラードライバーを目標にしています。理由としては、プロとして仕事ができる、認められるドライバーになりたいというのが根底にあるので、GT300のレギュラーに選ばれたらプロドライバーになれたという、自分のなかで目指してるポイントではあります。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ KYOJO CUP第2戦では3位獲得、第3戦では2番手チェッカー(レース後にペナルティで5位)を受けるなど、斎藤らとともに常にトップ争いを繰り広げている翁長実希。レーシングドライバーとして勝負にこだわる姿勢と、生まれ育った沖縄の人間味豊かな両面の個性が溢れていた。次戦では斎藤からランキングトップの座を奪還できるだろうか。 ⚫︎Profile 翁長美希(おながみき)沖縄県出身、11月4日生まれ。 KYOJO CUP初参戦となった2019年の第2戦でデビューウインを飾り、2022年にはシリーズチャンピオンを獲得。昨シーズンに続いて今シーズン(2024年)はCar Beauty Pro RSS VITAから参戦、持ち前の高いドライビングスキルを発揮して開幕戦で優勝を飾った。第3戦を終えた現在のポイントランキングは3位。 [オートスポーツweb 2024年08月08日]