「AI彼女」「ヌード化」アプリをハック! フェミニズムアートが切り込むAI時代の「ジェンダー規範」
AIが誰にでもアクセス可能なツールとして普及し始めた頃、理想の女性のイメージを生成できる「Gencraft」というアプリの広告が私のデバイスに頻繁に表示されるようになった。このアプリはどんな画像でも生成できるはずだが、どうやら広告やアルゴリズムは美しく若い女性たちを好むらしい。私は広告に使われていたプロンプトのスクリーンショットを撮っておいたが(そのため広告をさらに表示するアルゴリズムを働かせてしまったかもしれない)、それはこんな感じの文だった。 【写真】フェミニズムアートはこちら 「赤いレオタードを着た、茶色い髪のフランス人の女の子」 「戦闘用の鎧をつけた金髪の女性」 「エルフのような細かい模様のタトゥーを背中に入れた少女が湖を眺める様子を、背後から見た画像」 プロンプトでは指定していないのに、生成された画像の女性はみな美しく、やせていて、白人だった。そして、どの女性も微笑んでいるか、穏やかで優しい表情を浮かべている。完璧でない点があるとすれば、顔の周りに乱れた髪の毛があることくらいだが、それがかえって彼女たちをリアルに見せる。フランス人女性の画像は首がありえないほど長いが、それでいてとても優雅だ。
AI生成画像にも従来のジェンダー観
こうした画像に反発を覚えるフェミニストは私だけではないだろう。ダナ・ハラウェイやアーシュラ・K・ル=グウィンなど、フェミニストの学者やSF作家たちは、AIのようなテクノロジーによって旧来のジェンダーは消滅するのではないかと想像していた。バーチャルな世界が肉体を持つアナログ世界よりも優位に立ち、人々が自分の身体を自由に再構成したりカスタマイズしたりできるようになるにつれ、性別の二元論は時代遅れになるかもしれない。彼女たちはそんな未来を思い描いていた。 しかし、AIアシスタントの媚びたような女性の声、そしてアプリが生成したフランス人女性やタトゥーの入った女の子、ブロンド娘の画像が証明する通り、旧来のジェンダー観はバーチャル空間にもしぶとく根を張っている。AIは何でも作れるはずなのに、広告に表示されるのは退屈で想像力のかけらもないイメージばかりだ。 広告に出てくる女の子たちは氷山のほんの一角で、世間には映画『Her/世界でひとつの彼女』のような男性のファンタジー──身体的・感情的欲求を持たない従属的な相手との恋愛──があふれ、アップルのApp Storeには何十種類ものAI彼女アプリがある。セクシーなアニメ風の女の子や、「いつも側にいて話を聞いてくれる」女性など、好みに合う彼女と交流できるこうしたアプリには、高価なものもあれば、ReplikaやCrushOn AIなど、1億回以上ダウンロードされているものもある。さらに、インスタグラムの中にもAI彼女がいて(もちろん、AI彼氏やAI友達もいる)、好きな時にチャットできる。 こうしたバーチャルな恋愛相手は、離婚の原因になったことすらある。その一例が既婚者向けの出会い系サイト、アシュレイ・マディソンだ。このサイトは2015年にハッキングされ、衝撃的な事実が明らかになった。配偶者や家族との関係を危険にさらし、数万円の会費を払ってまで出会いを求めた何万人の男性がオンラインで交流していたのは、ボットだったのだ。とはいえ、AIを使えば、完璧な女性と好きな方法でやり取りできる。電話を使ったアダルトサービスと違い、相手は人間ではないので何の気兼ねもいらない。他人に見られることもなければ聞かれることもなく、何も残らない。