京極夏彦「本は、買うだけでいい。読もうが読むまいが、いいと思った本を手元に置いておくだけで人生は豊かになる」
◆本は、買うだけでいい そもそも僕は「物故系」とか「墓場系」とか呼ばれていて(笑)、生きているか死んでいるかはっきりしない小説家です。デビューこの方、「お元気ですか」と聞かれて、はいと答えたことがないくらい健康に無頓着。 どうか読者の皆さんには、僕のような生き方をせず、いつまでも健康で心豊かに暮らしていただきたい。そのために大切なのは、鍛えることじゃなく、いたわることです。家電でも洋服でも、長く使おうと思ったら大切にメンテナンスするでしょう。 そういう意味で、読書というのは非常に優れたメンテナンスツールになると思います。小説を無感動で読む人はいません。泣いたり笑ったり共感したり、面白くないと怒ったり(笑)。 テレビやユーチューブのように一方的に与えられる娯楽と違い、読書は自分で考えて判断することで脳を活発に使う行為なんです。しかも一度手に入れておけば、何度でも楽しめて非常におトクです。 読まない本を持つのは時間や空間のムダだという論がありますが、とんでもない話です。本は、買うだけでいい。読もうが読むまいが、いいと思った本を手元に置いておくだけで人生は豊かになります。題名を読んで中身を想像すれば感情は動く。「いつか読もう」と思えば、目も頭も大切にして、長生きしようと努力するかもしれないじゃないですか。 僕の著作には「読み切れない」と思われそうな分厚い本もありますが、ご心配なく。枕にも踏み台にもなるし、読むだけで筋トレになります(笑)。本作を入り口に手に取っていただけたら幸いです。 (構成=山田真理、撮影=本社・武田裕介)
京極夏彦
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