無観客、円陣なし、控えめゴールパフォ…対外試合再開に見えた新型コロナと共存する新しいサッカーへの戸惑いと決意
一列になった形ではなく、両クラブの選手や審判団がバラバラにピッチへ入場してくる。コイントス後の恒例の光景となるイレブンの集合写真が、社会的距離を確保した上で撮影される。そして、集中力とテンションを高める円陣も組まれないまま、試合開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。 来月4日のJ1リーグの再開まで3週間と迫った13日に、浦和レッズが無観客状態の埼玉スタジアムでFC町田ゼルビアと対戦した練習試合。30分×4本の変則マッチとして行われた以外は、新型コロナウイルスによる中断明けの試合運営や進行を見すえたシミュレーションも兼ねていた。 すべては12日にJリーグから公表された、トータルで70ページにおよぶ「新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」に沿っていた。例えばピッチの周囲には十数個のボールが置かれ、スローインやゴールキックの場面になると、選手たちが最も近くにあるボールを手にして再開させた。 実際に公式戦が再開された後は、クラブスタッフがボールを手渡す役割を担う。地元の子どもたちが務めることが多いボールパーソンを、感染予防を徹底するために当面は配置しない光景は変わらない。ボールだけでなくゴールポスト、コーナーフラッグも試合中に消毒する作業も然り、だ。 「公式戦へ向けたシミュレーションとして、ゾーニングやさまざまな導線を確認する場をクラブが作ってくれました。スタジアムへの入り方や試合前のウォーミングアップ、試合中の給水方法などを含めたプロトコルを、実際に確かめる意味合いもあったと思っています」 試合後にオンライン形式で行われた会見で、レッズの大槻毅監督はピッチ外の収穫をあげた。通常はクラブの練習場で行われる場合が多い練習試合を、あえてホームの埼玉スタジアムで実施。再開後と同じように、スタジアム到着時には両クラブの選手、コーチングスタッフ全員に検温が行われた。
接触を避けるためにスタジアムは競技関連、運営関連、スタジアム外縁と3つのゾーンに分けられ、例えばクラブの広報スタッフであっても競技関連エリアに立ち入れない。帯同人数が多かったこともあってロッカールームは時間差で使い分けられ、室内での「三密」が回避された。 ベンチの椅子には1席ごとに「着席不可」と記されたボードが立てかけられ、距離を取って座るリザーブの選手たちは、試合中もマスク着用が義務づけられた。飲料ボトルの共用も禁止されるため、選手たちはそれぞれの背番号を目立つように記してピッチの周辺に置いた。 「いままでとは違うシチュエーションで、やりづらさというものは少しありましたけど、他の選手たちも含めて、感染予防のためには仕方のない部分だととらえていました」 ゼルビアのキャプテン、DF水本裕貴が覚えた新型コロナウイルス禍に見舞われる前とは異なる感覚を、レッズのFW武藤雄樹も抱いていた。トータルスコア1-2でゼルビアに敗れたなかで、4本目の20分に一矢を報いるゴールを華麗な左足ボレーで決めた直後だった。 「サッカーで一番盛り上がるところだと思うんですけど、今日はゴールを決めてもハグなどはしないように、と言われていたので。選手同士での喜びも少し制限されるなかで寂しさはありますけど、リーグ戦になればカメラに向かってのパフォーマンスであるとか、少しでもファン・サポーターのみなさんと喜びを共有できたらいいなと思いました。なので、チームのみんなで考えておきます」 再開後は少なくとも2節で無観客試合が開催される。ナンバーワンの観客動員力を誇るレッズだからこそ、ボールを蹴る際に生じる無機質な音と、選手や監督の声だけが響く雰囲気に戸惑う。接触を避けるために、ゴールセレブレーションも握り拳やひじを軽く接触させるだけで済ませた。