日本通のアラン・ドロンが「パリの日本大使公邸」で舞った宴の夜、日本の文化外交、「国家ブランド」づくりに「物語」はあるのか?
エレガンス―文化の「ブランド化」と物語
「D'URBAN, c'est l'élégance de l'homme moderne.」(ダーバン、セレレガンス、ドゥローム、モデルヌ)=「ダーバン、現代を支える男のエレガンス」。これはアラン・ドロンが出演したレナウンの紳士服ブランド「ダーバン」のテレビコマーシャルだ。アラン・ドロンは「男のエレガンス」を代表し、それがフランス人のイメージづくりに貢献したことは否定すべくもない。 ダーバンの宣伝にこめられた「エレガンス」のブランドイメージはなんだったのであろうか。日本大使公邸の宴で外交官夫人の前にひざまずいた世界的なスターの姿はギャランという人間本性の自然な表現だが、それは間違いなく「エレガンス」であった。それこそフランス文化である。 「エレガンス」という言葉をうまく説明できなくとも、それは「エレガンス」だ。アラン・ドロンの行為は本人もさほど意識していないとっさの所作であったかもしれないが、であればなおさら、良質なフランス文化の表出であった。フランスかぶれであろうとなかろうと、それは誰にでもできることではないし、様になっていること、それこそが「ブランド」ではないか。
筆者も主催者をよく知る世界最大の「ジャパン・エキスポ」は三人の「オタク」のフランス人青年たちが小学校の教室ではじめた日本展が始まりだ。それよりも百年前には陶器の箱に入った緩衝材として使われていた和紙に描かれていた浮世絵の美術的質の高さに衝撃を受けて、日本の芸術性を世界に喧伝し、「ジャポニズム」の世界的ブームの火付け人になったのはフランスの印象派の人々だった。 天皇誕生日にミレイユ・マチューが大使公邸に来ていたのは、当時の日本ブームに誘われたことが背景にあることは確かだ。日本文化が彼女を大使公邸に誘った。アラン・ドロンにとってミレイユに会うことが第一の目的ではあったが、日本文化への親しみが彼を大使公邸に引き寄せたことも間違いない。