スティーブ・ジョブズが死の1年前、自分に送ったメールに書いた「意外な洞察」
スティーブ・ジョブズが自身に宛ててメールを送り、そのなかで思いがけない洞察を記したのは、彼が亡くなる1年前、2010年9月のことでした。 …と聞けば、どんな内容のメールだったのか、気になるところ。 技術革新にまつわる彼自身の壮大なビジョンを記したのか? はたまたAppleの10カ年買収計画だったのか? 答えは、そのどちらでもありません。
孤高ではなく協調だった
彼が記したこと、それはよくあるビジネスメモや技術的なブレインストーミングなどではなく、彼がいかに周囲の人に支えられて生きてきたかということでした。 彼はこう書いていたのです。 自分が食べるものは、ほぼすべて他人がつくってくれたものだ。現世を生きる人も今は亡き人も含めて、私はこの人類を敬愛し、尊敬している。 完璧へのあくなき追求と革新の代名詞と言われたジョブズでしたが、彼がそこに残したのは彼のこれまでの業績ではなく、むしろ彼が「いかに周囲に助けられていたか」でした。 どんなに自立、成功している人間でも、周囲の人々と深くつながり、支えられているかを彼がよく認識していたことを垣間見ることができる貴重な機会でしょう。 我々人間は、これまでもそして今後も、協力と帰属意識に基づく種である、ということは人類における紛れもない事実です。
個人主義への疑問
ところが、我々が進化の過程で勝ちとってきたものとは逆行する流れが、現代社会では起きているようです。なぜなら、度を過ぎた個人主義(人は1人でもやっていける、またそうすべきという信念)が、西洋では浸透しているからです。 自己責任を説く自己啓発書や孤高の天才を美化する風潮の影響で、他者に頼ることは弱さのあらわれである、と我々は刷り込まれてきました。 ところが、心理学の研究ではまったく異なる結果が明らかになってきました。 人類は、協調・協力するように進化を遂げてきたというのです。私たちの脳は周囲とのかかわりを持つようにできており、私たちの生死は、太古から集団で協力し合っていく能力にかかっているのです。 これは身体的な生存に限ったことではなく、精神的、感情的な幸福もまた、社会的なつながりと深く関わっているということです。 孤独は1日15本のタバコを吸うのと同じくらい健康を害する、と最近の研究でも明らかにされています。 独立とは虚構でしかないということを、ジョブズのメールは思い出させてくれます。先人たちや現在周囲にいる人々、さらには今後やってくる人たちのおかげで、私たちひとりひとりは生かされているのです。 この事実を無視すると、プライベートでも仕事上でも、孤立、断絶に陥ってしまうでしょう。 有名なイギリスの詩人ジョン・ダンの言葉、「人は一人では生きていけない(No man is an island)」にあるとおりです。