カロリー制限と断続的断食、「長寿」にどちらが有効か
「断続的断食」にはいくつかメリットがあるが、科学誌ネイチャーに2024年10月に掲載された研究論文によれば、その中に「生物の寿命を延ばす」という効果は含まれないかもしれない。むしろ、マウスを使った実験では、摂取カロリー量を制限するほうが長寿につながる可能性があることが明らかになった。 研究チームは、次のように説明している。「断続的断食とカロリー制限が人間の寿命を延ばすか否かについては、確定的な研究が必要だ。ヒトとマウスは代謝率が異なるため、食事制限による介入がヒトにおいて同等に作用するかはわからない。断続的断食や時間制限食などの食事制限による複雑な生理学的影響を分析するためにはさらなる研究が必要だが、本研究の知見では、食事制限に対するヒトの反応は、遺伝的背景に応じて大きな個人差があり、カロリー摂取量の適度な削減と日常的な摂食・断食のサイクルが主要な寄与因子であることが示唆されている」 つまり、寿命の長さを決定し、カロリー制限の効果を左右する要因としては、遺伝子の影響のほうが大きいということだ。研究に参加した米メーン州にあるジャクソン研究所のゲイリー・チャーチル教授は、こう述べている。「長く生きたいのなら、食事のように一生のうちに自分でコントロールできる要素もある。ただし、本当に必要なものは、極めて長生きの祖母である」 先行研究では、カロリー制限によって複数の生物の寿命が延びることが証明されている。だが、低カロリー食を続けるのは人間にとっては非常に難しい。だからこそ、比較的順守しやすい方法として断続的断食と時間制限食が人気を博している。 カロリー摂取制限と断続的断食を比較するため、チャーチルらは5群に分けたマウスにそれぞれ異なるタイプの給餌を行った。1つのグループには、1日中いつでも何でも好きなように食べさせた。別の2つのグループには、通常(ベースライン)のカロリー摂取量の60~80%だけを与えた。残る2つのグループには、週に1~2日は餌を一切与えず、それ以外の日には十分な餌を与えるという形で断続的断食をさせた。 その結果、断続的断食には健康面では効果がみられたものの、マウスの寿命を延ばすことに関しては、カロリー制限ほどの効果はなかった。食事の制限を受けなかったマウスは25カ月生きた。断続的断食により、マウスの寿命は28カ月に伸びた。そして、ベースラインの80%のカロリーだけを摂取したマウスの寿命は平均30カ月、ベースラインの60%の場合は34カ月だった。 一方、この研究では別の事実も判明した。低カロリーの食事をしていたにもかかわらず体重を維持した個体は、他の個体よりも寿命が長かった。だが、低カロリー食により体重をかなり減らした個体では、エネルギーレベルが低下し、免疫系と生殖器系に悪影響が出たのだ。 「カロリー制限は全般的に寿命に好影響を与えるが、本研究のデータでは、カロリー制限下で体重が減少すると、実は寿命に悪い影響を与えることが示された」とチャーチルは述べている。「したがって、長寿薬のヒト臨床試験で参加者の体重が減って代謝プロファイルが改善しても、それは将来の寿命という点では良いマーカーではまったくない可能性がある」 「本研究では、レジリエンス(回復力)の重要性が示されている。最も強靭な個体は、ストレスやカロリー制限に直面しても体重を維持し、そうした個体が最も長く生きる。さらに本研究では、もっと程度の穏やかなカロリー制限が、長期的な健康と寿命のバランスをとる手段になる可能性も示唆されている」とチャーチルは付け加えた。
Anuradha Varanasi