上司にきらわれたくない...公認心理師が身につけた「嫌な人間関係の上手なかわし方」
職場の人間関係や、忙しい毎日に、ふと不安を感じてしまうことはありませんか? 月刊誌『PHP』2024年7月号では、ネガティブな感情にとらわれず、心の健康を保つためのヒントを、公認心理師の上野恵利子さんに聞きました。(取材・文:社納葉子) 人間関係が良くなる8か条 ※本稿は、月刊誌『PHP』2024年7月号より、一部編集・抜粋したものです。
しんどくなる前に気持ちを切り替える
私は41歳のとき、小学生だった3人の子供を連れて離婚しました。慰謝料や養育費、手に職もない状態で、母のすすめもあって看護師になることを決意し、奨学金をもらいながら看護学校に通って、資格取得後は精神科で働き始めました。 子供たちを育てあげるのが自分の責任だと考え、家事や仕事に追われる日々。3人の子供それぞれを塾に送り迎えする車の中が一対一で話せるわずかな時間でした。 落ち込む暇もないと思っていましたが、今思えば、しんどさを優しい長男に向けていたのでしょう。つい厳しく当たってしまい、やがて思春期を迎えると口もきいてくれなくなりました。 長男との関係が難しくなりだしたころ、看護雑誌で目にしたアンガーマネジメントを学び始めました。当時、私は家庭で怒ってばかりでしたが、勤めていた精神科の患者さんやそのご家族、看護師たちも、怒りにまみれた環境にいたのです。 試しに「怒りにとらわれそうになったときは6秒待って、一呼吸置く」ことを、病棟の約20名の看護師たちと実践しました。3週間ほどで効果があらわれ、自分も落ち着けるし、患者さんにも余計なことを言わなくてすむと好評だったのです。 アンガーマネジメントとは、怒るべきことと怒る必要のないことを線引きすることです。思い通りにならないとなんでもかんでも怒っていた私でしたが、怒りの原因が自分の問題か相手の問題かを見きわめられるようになると、怒る回数が減っていきました。 たとえば、長男が宿題をしないこと。親の立場としてはやきもきしますが、先生に怒られるのも勉強がわからなくなるのも彼です。先々で困るようなことがあったときにあらためて相談すればいいという考え方になり、勉強をしていない姿を見ても小言を言わなくなりました。心に余裕が生まれて長男への接し方が変わると、長男の態度も少しずつ柔らかくなっていきました。 精神科病棟では、多くの患者さんと出会いました。笑顔で退院した人が3カ月後に暗い顔をして再入院してくることはめずらしくありません。みずから命を絶ってしまった人もいます。「本当の回復ってなんだろう」と考えざるを得ませんでした。 人に頼ることを知らなかったり、自分をケアできなかったりすると、社会で心が折れてしまう。心が折れてしまう前に回復させる手助けがしたいと思うようになり、公認心理師の資格を取得しました。